Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

二十歳の頃に知っておきたかったこと 2007

はじめに

Stanford大学では、“Entrepreneurial Thought Leaders Seminar”という毎週、シリコンバレーの起業家を呼んだ講演シリーズの授業があります。このシリーズの中で、私も良く知るTina Seeligが"I Wish I Knew When I was Twenty"というタイトルで講演を行っていました。内容はこのタイトルにある通り、「私が20歳のときに知っていたら良かったと思うこと」を10個条でまとめたものです。

誰もが人生ある程度キャリアが積み重なってくると、今の自分の哲学や考え方は、さも昔から持っていたと勘違いしてしまいがちです。自分が例えば20歳だった頃がどんなに無知で、未経験であったか、そしてどんなことに悩んでいたかを忘れてしまいがちです。こういったことを忘れてしまうと、いくら良いアドバイスにつながる講演を学生にしたとしても、学生が今悩んでいることの解決方法にはなりえません。

そこで今回Tinaがとった方法は、自分が20歳の頃を思い出して、そのときに知っていたら良かったと思うことを10個条にまとめる、というものです。なるほどな、と思いました。私も大学を卒業してから8年近くが立ち、さもすると学生の頃の視点を忘れてしまいがちです。そこで、先日の学生との合宿では、学生たちに、私なりの"I Wish I Knew When I was Twenty"をお話することにしました。内容的には、かなりTinaの10個条に影響を受けています。いずれTinaにお願いして彼女のバージョンもネットに公開してもらいたいな、と思っています。

この視点は、学生や後輩をアドバイスしていくときに極めて重要であるように思います。ぜひより多くの皆さんにその人なりの「10個条を作っていただいて、共有していただければと思います。そういえば、メンターの鈴木茂男さんがこの合宿の後、茂男さん版の10個条を作って下さいました。ぜひいずれ公開していただきたいですね。

ちなみに、このブログのタイトルを"二十歳の頃に知っておきたかったこと 2007"としたのは、きっと今後も年とるごとに、経験をより積んで、内容が変わっていくだろうと思ったからです。という訳で私の2007年版、"二十歳の頃に知っておきたかったこと"をお送りします。


I Wish I Knew When I was Twenty

1. 「自分の好きなこと」は、必要条件であって十分条件ではない。

SFCの学生は良く、「自分の好きなことを見つけろ」と言われる。でもこれはうそ。信じてはいけない。本当は、「自分の好きなこと」、「自分が能力のあること」、「マーケットのあること」の3を満たせるテーマや活動を選ばなくてはならない。

「自分が好きなこと」を追及することで、ファンにはなれる。例えば音楽が好きで、ずっと音楽を聴いているということは可能だ。でもそれには誰も金は払ってくれない。「自分の好きなこと」と「自分が能力のあること」を両立させることを趣味という。例えばバンドの演奏が得意な人はその典型。でもそこに「マーケット」がなければ誰も金は払ってくれない。「自分が能力のあること」と「マーケットのあること」を両立させている人のことをサラリーマンという。多くの人はこのパターンである。お金も払ってもらえる。でも本当に充実感のある人生が送れるのか。

世の中で良く「自分の好きなことを見つけろ」と言われるのは、一般的にサラリーマンを中心に「自分の能力のあること」と「マーケットのあること」は実現させている人が多いからだ。でも、学生に「自分の好きなことを見つけろ」というメッセージを出すとこの言葉だけ独り歩きしてしまう。大学4年間の時間の使い方としても、いかにこの3つを考えながら、自分が磨くか、ということは大切だな、と思う。

2. 自分の運命はコントロールできないけれども、自分のattitudeはコントロールできる。そして、自分の態度・考え方が運命を決める。

世の中には、「チャンスに出会う人」と「チャンスに出会わない人」がいる。学生を見ていても、大学4年間で色々なチャンスをつかみ、ぐんぐん伸びる学生もいれば、4年間「ぼーっと」過ごす学生もいる。「チャンスに出会う」かどうかは運である。運の良さをコントロールすることはできない。でも運の良いことに出会う確率を上げることは可能である。

この差は何なのか。「チャンスに出会う人」は人脈が豊富。まわりからの信頼が高い。「あいつに任せたらきっと実現してくれそうだ」と思われている。「必要なときに、必要な場所に、必要な人といる」ということを適切にできる人がチャンスをつかむ。

もう少し具体的に言えば、「幅広い分野に興味を持つ」、「人と人との出会いを大切にする」、「人からの誘いは断らない」、「人の気持ちを常に考える」、「人から頼まれたことは手を抜かずきちんとクオリティを出す」、「常に明るく楽しくふるまう」などの気持ちの持ちようが大切。これらの気持ちの持ちようは、自分でコントロールできるもの。この気持ちの持ちようが運営を決める。

3. 人とのつながりを大事に。決して人とのつながりを「切って」はいけない。人生の別のタイミングで、またその人とのつながりが大切になるときが来るから。

学生を見ていると、途中でプロジェクトを投げ出す人が結構多い。相手に誠意を示すことなく、途中で投げ出すことが多い。学生からすれば、このプロジェクトが終われば相手とのつながりも終わるので、これで大丈夫、と心の中で思っているように思う。

こういう学生は根本的に「世界がいかに狭いか」を分かっていない。「世界は100人しかいない」くらいに思っていた方が良い。人生の局面の中ではかなり高い確率で、同じ人とまた別の機会に仕事をするチャンスが巡ってくる。

今回のプロジェクトで、相手との縁は最後だと思いプロジェクトを途中で投げ出し、その後またその相手と別のプロジェクトで一緒に活動することになった場合、相手は確実にこちらのことを信頼してくれない。マイナスからのスタートである。場合によっては最初から相手にされない可能性もある。

意外と学生時代のそのような行動が、将来の自分の仕事を左右してしまうこともある。学生時代に同じプロジェクトをやった人、同じ教室で授業を受けた人とは、将来必ずまた一緒に仕事をするときがある。これを肝に銘じておいた方が良い。

4. 「生意気」と「無礼」は似て非なるもの。混同しないように。

学生は生意気であって欲しい。年上の対して萎縮して言いたいことが言えない、というようなことは絶対避けるべきである。"Don't trust over thirty."と良く言うが、本当にクリエイティブなものを生み出す力はは20代までの人材が持っているように思う。であるから、年上や権威のいうことも積極的に疑って、自分の信じることをつきとおした方が良い。生意気であることは良いことだ。

でも一方で、「生意気」と「無礼」を混同してしまっている学生も多い。自分が本当に正しいと思うことを主張するのは良いこと。でもそのときも相手のアドバイスに聞く耳を持つべきだし、そういったアドバイスを下さる方に敬意は示すべき。それができない人は、単なる無礼な人、で終わってしまう。

「生意気」な学生は応援されるが、「無礼」な学生は相手にされなくなる。

5. 「大人」はやっぱりすごい。学生では叶わない世界。若いうちに大人から沢山学ぼう。年とればとるほど、目上の方から学ぶチャンスが減るし、無知な質問がしづらくなる。

学生は、クリエイティブでパワーがあり、新しい社会を作り上げていく原動力であると思う。でも、そこに自信を持ちすぎると、「大人=古い世代」と勘違いしてしまいがち。大人には頼らず、学生だけで物事を進めようと、という気持ちになってしまう。

でも、社会経験豊富な大人はやっぱりすごい。物事を動かす方法論を分かっているし、動かすためのネットワークも持っているし、技術もあるし、何より判断をぶれないようにするための見識がある。

学生の間に、大人と距離をおいて、学生だけで物事を進めようとすると、こういったことを学ぶチャンスを逸してしまう。年をとればとるほど、こういったことを教えてもらうチャンスは減ってしまう。そのためには、若いうちに、自分がリーダーをとるプロジェクトばかりやるのではなく、大人のやっているプロジェクトを手伝ってみる、という経験も極めて重要だと思う。

6. いつが突然大人になるんではない。学生から大人は延長線。結局学生のうちから沢山学び、経験をつんでいくしかない。大人になるからできることが増えるのではない。

学生を見ていると、「学生の間は遊んでいればいい、社会人になったり、大人になったら、できることが増える。」と思ってる人が多い。これは根本的に間違っている。能力というのは年をとるごとに自然と身に付くものではない、

もっといえば、世の中には、「社会的に立場・役割が与えられてから動こうとする人材」と「自分がやりたいことでまず動き、その結果として自分の立場・役割を作り上げていく人材」の二通りがいるように思う。どちらが良いかという議論は色々あると思うが、Entrepreneurとして新しいことを生み出す気概を持ちたいのであれば、間違いなく後者であろう。

学生の間に、わざわざ大人が立場・役割・ポスト・権限を用意してくれることはほとんどない。すべては自発的な行動の中で生まれてくる。そして、意外と学生時代のこういう能動的な体験が多ければ多いほど、社会人になってもその経験が生きてくる。

昔、履歴書では、それぞれどんな会社でどんなポストにいたかが重視されていた。従ってキャリアの第一ステップは、最初の就職先であった。でも今や、どんなポストにいたか、ではなくて、それぞれの立場でどんな経験を持ったかが求められている。そう考えると、学生の間の活動が間違いなく、ファーストキャリアとなる。今まで以上に、学生から大人への道筋は同じ延長線上になり始めた、と思う。

7. 「自分がやりたいこと」を学生で見つけるなんて不可能。でもやりたいことが見つかりそうな場を見つけることはできる。"Great Vantage Point"を常に探し求めよう。

SFCの学生の一番の悩みは、「自分がやりたいこと」が見つからない、ということだろうと思う。そのときの彼らの共通の傾向として、「一生かけて追い求めたいテーマ」を探そうとしすぎなのではないか、と思う。人間、自分が人生かけて追い求めたいテーマなんてすぐに見つかるものではない。

ぜひ学生のうちに薦めたいのは、「これから3か月真剣にがんばってみたいテーマ」を見つけてみるということだ。3か月がんばってみて、やっぱり違うと思えば、またテーマを変えればいい。ただしここで大事なのは、3か月という短い時間でも、「真剣にがんばる」ということだ。中途半端に表面的にかじっているだけではだめ。それでは、いろいろな分野をかじってみたけど、全部つまみ食いで何も身につきませんでした、ということになってしまう。

もう一つ大事なので、「自分のやりたいこと」が見つかりやすい場所と、見つかりづらい場所がある、ということだ。世の中には、明らかに時代のトレンドの先端を走り、面白い人が集まっている場がある。そのような場にいて、色々な人と交流すると、やりたいことが見えてくることが多い。特に、世の中で先端的な活動してる場にいると、その活動のまわりにある社会全体の変化までが俯瞰できるようになる。このような場を"Great Vantage Point"と呼ぶ。

「やりたいことが見つからない」場合は、やりたいことがみつかりそうな場("Great Vantage Point")を探してみる、これがまずスタートかなと思う。

8. Connecting the Dots. 今やっていることはいつかつながる。

私自身も覚えがあるが、学生時代はとにかく色々なことに興味を持つものだ。決して一つのテーマに絞ることなんてなかなかできない。色々と手を出してみたは良いが結局何も身に付かない、ということになりがちである。というより、学生の間はその不安を持つことが多い。

でも私自身の経験でいうと、必ずしもそうでもないような気がする。自分自身のキャリアの志向性が、プロフェッショナル志向だろうとジェネラリスト志向だろうと、学生時代に分散的にやっていた活動は、かなり高い確率で将来に役に立つと思う。ただし、中途半端ではなく、一つ一つの活動を真剣にやっていれば、という条件がつくが。

自分が真剣に取り組んだ活動は複数の分野にまたがったとしても、それぞれが自分の強みになる。将来今より大きなプロジェクトを扱うようになると、自分がマネージする幅が増えて、そのときには今まで一見関係なかった分野も、つながっていくことが良くある。

"Connecting the Dots"という言葉は、Steve Jobsスタンフォード卒業式のスピーチから転用した言葉である。自分の学んだ知見や経験は、過去から未来をつなぐことができないが、未来から過去をつなぐことはできる。

9. 自分の好きなことばかり、やるだけではだめ。「雑用」をこなすことこそ一番年上の人から学ぶチャンス。

私自身の学生時代にあてはまるが、とにかく学生時代は、自分の好きなことをやろうとしすぎる傾向がある。もちろんそれはそれで良いことなんだけれども、一方で自分が主役になろうとしすぎると、自分の能力がボトルネックになってしまって、プロジェクト自体のスケールが小さくなってしまい、結果的に自分の学ぶものも少なくなり、成長のチャンスを逸してしまう、ということが良くある。

若いうちのプロジェクトとして、もちろん片側で自分がリーダーシップをとる活動は大事なんだけれども、もう片側で先輩や教員のプロジェクトを手伝ってみる、という経験をすると良い。先輩からすると、実力の低い後輩に任せられる仕事ははじめは雑用くらいしかない。でもそういう雑用を自ら手伝ってみることによって、その先輩から実に様々なことを学べる。自分がリーダーシップをとっているだけでは決して学べないようなことを学ぶことができる。その先輩から自分が見えてない視野やより大きなスケールでのプロジェクトの進め方を学ぶことができる。自分自身、そのような経験から実に様々なことを学んだ。でも今思うと、もっとそういう場を増やしておけば良かった、と後悔している。

ちなみに、雑用という言葉も、定義が難しい。学生を良く見ていると、雑用だから、といっていい加減なクオリティの仕事を出すことが多い。でもコピーとり一つにとっても、良い仕事をこなす人とそうでない人がいる。一つ一つの仕事を丹念にこなす能力、この姿勢がない人は、結局先輩から育ててもらうチャンスも逸していくんだろうな、と思う。

10. 日々、「問題」を「発見」し続ける訓練を。

「ビジネスチャンスってどこにあるんですか?」、「どうやってあるビジネスアイディアにマーケットがあるかどうかを判断すれば良いんですか?」という質問を受ける。でもこの質問の答えは意外にシンプル。「世の中にある問題を見つけよ。問題がないところに、ビジネスチャンスはなく、マーケットもない。大きな問題であればあるほど大きなビジネスチャンス。」ということが基本であるように思う。

そう考えると、何が大事って、日々「問題」を「発見」し続けること。最近は私も日々、色々なところの「問題」を発見しようとがんばるようにしている。でももしこれを二十歳の頃から毎日やっていたら、今より力がついていただろうな、と思う。新聞読んでいても、ネットサーフィンしてても、町中を歩いていても、必ず「問題」ってあるはずだ。そのときがビジネスチャンスの発見なんだろうと思う。


まとめ

という訳で、私なりに思いつくなりに10個条にまとめてみました。ちなみに10個条にまとめる、というのは、相手の忍耐力を持たせて、途中で飽きさせない、という精神的な効果があるそうです。Silicon ValleyでもGuy Kawasakiの講演は必ず10個条ですよね。