Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

学生に「起業したい」と相談されたら、どう答えるべきでしょう。


仕事がら、学生から「起業しようと思っています。どう思いますか。」という相談を頻繁に受けます。この質問への答えって極めて難しいですよね。もちろん私は、大学でインキュベーションを推進する立場な訳で、より多くの人に起業して欲しい。でも、起業は人生のキャリアを左右するものだし、学生を起業に煽るというのは良くないですよね。Entrepreneurshipというのは、人生の生き方そのものだし、起業するからには、その学生に幸せになって欲しい。

そんなとき、まず私は必ず起業を反対することにしています。「今のプランでは起業はやめておいた方が良いじゃん。」と。これで諦める学生もいれば、諦めない学生もいます。でもそもそも私に反対されたくらいで起業を諦めるような学生だったら起業しない方が良いのです。このときに反発するような学生であることは必要条件と思います。

さて、次に大切なのが、なぜ起業するのかという、その学生の内発的な動機だろうと思います。でも、内発的な動機があれば、動機は何でも良いのか、というとそういうものでもない。これの内発的な動機が何かということを確かめることが重要なんですが、ただ漠然と「何で起業したいの?」と学生に聞いても良い答えは帰ってきません。

こんなときに私が良く見せるのが、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストである、Guy Kawasakiの"Make the Meaning"というタイトルのビデオです。まずはぜひこのビデオをご覧下さい。




要は、Entrepreneurshipの本質、起業するっていうことの本質は、「起業したい」とか「お金を儲けたい」っていうことが目的ではないんです。あなたは、社会においてどんな意味を作りたいのか、この質問に答えようとしているかどうかなんです。社会に新しい意味を作りだすことが目的の人は儲けられるかも知れない。でも儲けることが目的な人は儲けることはできない。これはまさにEntrepreneurshipの奥底にある本質だろうと思います。

さて、「社会において意味をつくる。」と言っても、どんな意味でも良いのか。そんなことはないと思います。Guy Kawasakiは、意味を作るには3つの方法があると言っています。

  1. Increase the quality of life.
  2. Right a terrble wrong.
  3. Prevent the end of something good.


一つ目は、「人生の質をあげること」です。今よりも人類が幸せな人生を送ることを促進できれば、社会において新しい意味を作ったことになります。二つ目は、「間違ってることを正す」ということです。今の世の中には間違っていることが沢山あります。その間違いを正すことができるんであれば、社会において新しい意味を作ったことになります。三つ目は、今世の中にあって良いなと思うものがなくなることを阻止することです。確かに、良いものがどんどん消えていってしまう、と感じる時ってありますよね。それを防ぐことができれば、社会において新しい意味を作ったことになります。Guy Kawasakiは、この3つのうち、一つ以上当てはまるような動機がなければ、起業なんてしない方が良い、と言っています。私も全くその通りだと思います。

さて、ここまで質問するとほとんどの学生はあきらめてしまいます。でも、逆にここまでをしっかり応えられるのであれば、「不確実性は大きいけれども、まずは第一歩を踏み出してご覧」、と背中を後押しすることにしています。


私がやってきた6年間の活動は、「社会における新しい意味を生み出し、その活動を通じて幸せになる人材」を育む、というEntrepreneurshipの啓蒙活動であったんだろうと思うし、それがインキュベーションの本質なんだろう、と思います。