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Science, Technology, and Entrepreneurship

政策研究大学院大学助教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

「100年に一度の危機」の中での就職戦線とチャンスの到来

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「100年に一度の危機」と言われる中で、今年の就職戦線は、予想を上回る厳しい状況であるように感じる。慶應の学生を見ていても、例年であれば、人気企業トップランキングに内定をもらえそうな学生が、軒並み内定ゼロという状況だ。ここ数年が就職バブルであったことも否めないが、私が大学の頃のいわゆる「就職氷河期」を上回る大変な状況が今の学生にのしかかっている。就職を辞めて、海外留学を目指す学生も増えていると聞く。来年は今年よりももっと厳しい状況も予想されるので、今の大学3年生も戦々恐々としている。

でも一方で、今の状況の中で、内定を7つ獲得しているような学生もいる。その学生は、学生時代から自分のやりたい夢を見つけて、自分なりの軸を確立し、夢の実現を目指して頑張ってきた。就職先として受けた企業もいわゆる人気企業ばかりではなく、自分の夢を実現できそうなところを具体的に選んでいる。そうやって就職活動を続けていくうちに、自分の軸もより明確化し、訓練を重ねた結果なのか、いわゆる人気企業の内定も得ている。本人曰く、「ずっと就職活動に没頭していたので、周りの人と話す機会もあまりなく、最近になって、周りが内定をあまりもらえてなくて、就職が厳しい時代になっているということに気づいた。」というくらい、この社会環境に流されずに自分の軸を強く持っている。今の時代ほど、自分の軸を明確にする必要性の高い時代はない、ということなのかも知れない。

ただし、この軸というのが、梅田望夫さんのいうところの「時代の力」と合っているかどうかを良く吟味する必要がある。今年の就職活動で、「金融」や「自動車産業などの金融と連動性の高い産業」を軸にしてしまうと、絶対に就職活動はうまくいかない。一方、株価を見ていると良く分かるが、例えば任天堂オリエンタルランドのような消費者視点における低コストなエンターテイメント産業は、不況であるにも関わらず、好調な業績をあげている。このような、今の「時代の力」を読んだ学生、もしくは偶然かも知れないが、自分の軸とその「時代の力」が合った学生は、このご時世の中でも、大健闘している。


ところで、英語でcrisisという言葉を日本語では「危機」と訳す。「危機」とは、「危険」を意味するdangerと「機会」を表すopportunityの二つの意味を合わせた言葉である。改めて考えてみるとなんて前向きな言葉なんだろうと思う。確かに、就職活動で苦労している人は多い。でも、考えようによっては、「危機」とはdangerとopportunityが両立している状況を表す訳で、今ほどチャンスの多い時代もないように思う。


私は大学にいてずっと感じていたのだが、好況のときに就職活動を迎えた学生よりも、不況のときに就職活動を迎えた学生の方が、この苦労を前向きに変えることができれば、自分自信を成長させる良いチャンスになっているように思う。就職活動をバブル期に迎えたバブル世代は、自分の市場価値を実体より高く勘違いして、組織に依存して、自分の市場価値を上げる努力を怠ってきた傾向が強いように感じる。一方で私のような就職氷河期世代は、そもそも就職に苦労しているので自分の市場価値を実体より高く評価することもないし、どのようにキャリアを構築していけば良いか、どこにより大きなチャンスがあるかについて、日々考えることを迫られてきた。すなわち人生の早い段階から、自分の軸を確立することと「時代の力」を読む力が必然的に養われてきたし、日々自分の市場価値を上げるように鍛練している傾向が強いように感じる。

考えようによっては、このような試練を、キャリア的に手遅れになる前に、突きつけられる世代というのは、長いキャリア設計においては、advantageになっていくような気がする。今の就職活動世代の人たちが、この試練を乗り越えて10年後、20年後に活躍する姿が楽しみに思う。