Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

最近どんな研究テーマを追いかけているのか


このブログを継続的にご覧いただいている皆様はご存じかと思いますが、昨年夏から私は大きく研究テーマを変えて、過ごしています。私は「イノベーション」を自分の専門テーマにする学者になっていきたいと思っていますし、大学を基盤としたイノベーション・システムをテーマとして追いかけていることには変化がありませんが、もともと同窓会ネットワークをテーマにしていたものを、イノベーションを誘発するファイナンス・システムにテーマ変更しました。

この視点から大学をイノベーション・システムを見るようになった途端に、一気に視野が開けて、色々な研究すべき課題を思いつくようになりました。研究テーマというのは、自分の見える視野を広げることもあるし、規定してしまうこともある。自分の追い求める研究テーマの選択が人生にいかに重要であるかを改めて学んだ1年でした。改めて研究テーマの変更のアドバイスを下さった國領先生に感謝です。

今回は、私の今取り組んでいる研究テーマについて、簡単にご紹介しようと思います。今年度から、SFCの博士課程では毎学期「博士課程修了要件に関する申請書」というものを提出するようになりました。そこに記載した研究タイトル及び研究概要は以下の通りです。

地域イノベーション・システムにおける大学の役割と研究資金調達手法に関する研究


21世紀は、オープン・イノベーションの推進が必要不可欠な時代であり、その知的資産の源泉としての大学の重要性が高まった。大学による潤沢な研究資金の獲得は、グローバル競争の激化したイノベーション創出のために必要不可欠な要素である。

本研究では、イノベーションプロセスのリニアーモデルにおいて、基礎研究を前期基礎研究と後期基礎研究に分類することが可能であるとの仮説を前提として、後期基礎研究の資金調達にキャズムがあることを明らかにし、その資金調達手法を検討する。

本研究においては、大学を基盤としたイノベーションのケース・スタディ分析、及び各地域におけるナショナル・イノベーション・システムの比較研究により、上記の仮説検証を行う。


さて、この大きなテーマの中でもいくつか具体的においかけている研究課題はいくつかあるのですが、ちょうど今週の月曜日が締め切りだった、慶應義塾大学大学院の「博士課程学生支援プログラム」に申請した二つの研究プロポーザルをご紹介したいと思います。

まずは、「博士課程学生支援プログラム」の全塾枠に申請した研究プロポーザルです。

金融クライシス以後におけるイノベーション創出促進のための金融システムに関する研究


1. 研究の目的

イノベーションは各国の経済発展の源泉であり、技術の発展が高度化・複雑化・高速化する21世紀において、多様な知を創出し、組織横断的に結合する、オープン・イノベーションの重要性が高まった。このオープン・イノベーションを促進するためには、大学における研究資金獲得、ベンチャー企業設立・成長のための資金調達、大企業からの技術のスピンオフのための資金調達、大企業による外部技術の吸収のための資金調達など、多くのプロセスにおいて、適切な金融システムが機能していることが必要不可欠である。資金提供のみならずその資金の性質が、イノベーション・プロセスにおいて大きな影響を与える。

しかしながら金融クライシス以後、金融システムにおける「信頼」が崩壊し、世界は迅速な金融システムの再設計が求められている。その環境下においては、本研究では、イノベーション創出促進のためにどのような金融システムが有効であるかについて、世界の実態を適切に把握し、先進事例の地域間比較のケース・スタディ分析を行い、我が国に相応しいイノベーションシステムの設計に寄与することを目的とする。


2. 研究の内容

本研究は概ね以下のステップに基づいて推進する。
1)先行研究のサーベイ (国内における文献調査は達成済みであるが、引き続き海外の文献の調査を続ける)
2)先進事例のヒアリングとして、以下の地域イノベーション先進事例を訪問し、ベンチャーキャピタリスト、企業のイノベーション担当者、政策立案者等へのヒアリングを行う。 候補地: シリコンバレー、サンディエゴ、ボストン、オースティン、シンガポール、ケンブリッジ
3)投資銀行の商品企画担当者、ソブリンファンド担当者
4)米国政府のイノベーション政策の研究資金配分担当者へのヒアリング (NSF、NIH等を中心に)
5)ヒアリング結果のまとめと論文執筆


3.期待される成果及び助成期間終了時の達成目標

本調査の結果に基づいた国際学会の発表と海外ジャーナルの掲載を目指す。平成22年1月に政策・メディア研究科のフォーマル発表を実施し博士論文の骨子を固め、2年目に引き続き調査を継続した後に、平成23年度中の博士取得を目指す。


4. アピールすべき点(ご自身の研究の重要性、将来展望をアピールしてください。)

ヘンリー・チェスブロウ教授を中心としたオープン・イノベーション研究について、金融システムの側面からの検証は不十分であり、本研究における分析は学術的に大きな貢献となる。この成果は我が国におけるナショナル・イノベーション・システムの設計におい
て、有益な知見を提供することが予測される。慶應義塾大学にとっても、研究・イノベーションの国際競争力を高めていくための適切な研究資金調達手法を獲得する方法を検討するために有益な知見を提供することが可能である。この研究を遂行するために必要となる各地域イノベーションの担当者との関係を既に保持している。このような本研究を実施するにあたってのアドバンテージを持った研究者は国内外を問わず、多くないと考えられる。また、本研究は将来的には、イノベーションのみならず、グローバルな金融システム全体の適切な再構築への貢献も期待される。


5.キーワード(研究内容を表すキーワードを3〜5ほどご記入ください。)

オープン・イノベーション 金融システム ベンチャー企業 地域 技術開発 


6. 従来の研究経過・成果または準備状況

先行研究調査は大枠終了しており、RQ及び仮説は構築済み。各地域のキーパーソンとの関係は既に構築しており、今後必要に応じてインタビュー先を広げていく予定である。


引き続いて、「博士課程学生支援プログラム」の研究科枠に申請した研究プロポーザルです。

大学の基礎研究に基づいたイノベーション・プロセスと研究資金のキャズムに関する研究


1. 研究の目的

21世紀は、オープン・イノベーションの推進が必要不可欠な時代であり、その知的資産の源泉としての大学の重要性が高まった。大学による潤沢な研究資金の獲得は、グローバル競争の激化したイノベーション創出のために必要不可欠な要素である。各国は国際競争力の向上を目的として、ナショナル・イノベーション・システムの構築・強化に注力している。

本研究では、イノベーション・プロセスのリニア・モデルにおいて、基礎研究を前期基礎研究と後期基礎研究に分類することが可能であるとの仮説を前提として、後期基礎研究の資金調達にキャズムがあることを明らかにし、その資金調達手法を検討する。このキャズムを乗り越えることのできるナショナル・イノベーション・システムの設計が、国際競争力向上のために必要不可欠であると考えられる。

本研究においては、大学の研究に基づいたイノベーション・プロセスのケース・スタディ分析、及び各国のナショナル・イノベーション・システムの比較研究により、上記の仮説検証を行う。


2. 研究の内容

本研究は概ね以下のステップに基づいて推進する。
1)先行研究のサーベイ (国内における文献調査は達成済みであるが、引き続き海外の文献の調査を続ける)
2)基礎研究から実用化まで至ったイノベーションの成功事例を3つ選択し、それぞれのステージにおける課題及び研究資金の調達手法に関するケース・スタディを行う。
3)エクイティベースによる研究資金を調達した萌芽的事例として、iPS細胞とメタボロームに関する研究をケース・スタディとして取り上げて、それぞれのステージにおける課題及び研究資金の調達手法に関する調査を行う。
4)基礎研究の研究助成に関して、特徴的なナショナル・イノベーション・システムを構築している、日本、米国、英国、シンガポールの4カ国の科学技術政策担当者へのヒアリングを行い、比較研究を行う。
5)ヒアリング結果のまとめと論文執筆


3. 期待される成果及び助成期間終了時の達成目標

本調査の結果に基づいた国際学会の発表と海外ジャーナルの掲載を目指す。平成22年1月に政策・メディア研究科のフォーマル発表を実施し博士論文の骨子を固め、2年目に引き続き調査を継続した後に、平成23年度中の博士取得を目指す。


4. アピールすべき点(ご自身の研究の重要性、将来展望をアピールしてください。)

ヘンリー・チェスブロウ教授を中心としたオープン・イノベーション研究について、知的資産の源泉である大学の基礎研究の役割からの検証は不十分であり、本研究における分析は学術的に大きな貢献となる。この成果は我が国におけるナショナル・イノベーション・システムの設計において、有益な知見を提供することが予測される。慶應義塾大学にとっても、研究・イノベーションの国際競争力を高めていくための適切な研究資金を調達し配分する方法を検討するために有益な知見を提供することが可能である。この研究を遂行するために必要となる、各国の大学のイノベーションセンター担当者との関係を既に保持している。このような本研究を実施するにあたってのアドバンテージを持った研究者は国内外を問わず、多くないと考えられる。


5. キーワード(研究内容を表すキーワードを3〜5ほどご記入ください。)

オープン・イノベーション 大学 基礎研究 研究資金 キャズム


6. 従来の研究経過・成果または準備状況

先行研究調査は大枠終了しており、RQ及び仮説は構築済み。各地域のキーパーソンとの関係は構築済みであり、今後必要に応じてインタビュー先のネットワークを広げていく。


ちなみに、この研究プロポーザルを三田の研究支援センター本部に提出に行ったんですが、たまたま事務の担当の方が以前お会いしたことのある方で、「牧さんだったらわざわざこの研究費もらわなくても、研究資金大丈夫なんじゃないの?」と言われてしまいました。皆さんの中には、私のSIV事務局長時代の研究費を沢山稼いでいたイメージが強いのかも知れないですね。でもそれはもう過去のことで、博士課程の学生としての私としては、こういった貴重なチャンスに積極的にアプライして、自助努力を重ねて、少しでも良い研究成果を出していきたいと思っております。