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Science, Technology, and Entrepreneurship

政策研究大学院大学助教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

ブッシュの「強いアメリカ」、オバマの「強いアメリカ」


憧れの地としてのアメリカ

最近、先輩で昔のアメリカの繁栄を実際に目の当たりにしている方々とお話すると、誰もが最近のアメリカは変わったと言う。40年前から50年前、日本は物質的な豊かさは皆無で、アメリカに行くとそこは豊かさの象徴のような場だった。アメリカは憧れだった。でも、今のアメリカにはその憧れを感じない、と言う。

私は1978年生まれなので、物心ついた頃は"Japan as Number One"の時代で、日本も十分豊かとなっていた。3歳の頃から毎年サンフランシスコに夏休みにいっていたので、子供の頃からアメリカに慣れ親しんでいる。子供心に、アメリカには日本にはないおもちゃや遊園地があり、アメリカへの魅力を持っていた。

10歳から15歳まではイタリアでアメリカンスクールに通ったので、やや変則的ではあるが、多感な時期にアメリカの教育を受けている。日本にはない、柔軟な授業スタイルにインパクトを受けた。アメリカの教育水準は低いというが、私が通ったのはOverseas Schoolということだからかも知れないが、小学校、中学、高校と段階が上がるにつれて、高度な授業が展開されていた。教員の中には博士を持っている人も多数いたし、それぞれの教員が創意工夫を凝らして、授業を行っていた。中3のときは私はスキップして高校1年のAlgebra (代数学)を履修していたか、内容的には日本に帰国して高校受験で全く困らない水準であった。

社会人として仕事をするようになり、大学のイノベーション業界に携わるようになって、アメリカに出張する頻度は飛躍的に上がった。アメリカに行く度に、アメリカの大学の先進性に驚嘆し、そこから学ぶことが沢山あった。

そのような経験をしてきた私にとっては、アメリカは未だに憧れの存在である。でも一方で、ここ最近のアメリカに違和感を感じつつあったことも確かだ。


最近読んだ本

アメリカはこれからどこに向かうのか。未来への展望を理解するために、アメリカを理解することは必須である。アメリカに関する色々な文献を読み漁った。特に以下の3冊にinspireされた。


さらばアメリカ

さらばアメリカ

グリーン革命(上)

グリーン革命(上)

グリーン革命(下)

グリーン革命(下)


ブッシュのアメリカ

これらの本を読んで感じたのはブッシュの8年間というのは、アメリカを後退させた8年間であったのだろうということである。

September 11は、アメリカ、そして世界を変えた。アメリカはテロと戦う国家として、アフガニスタンへの攻撃、そして国連決議を無視してイラク戦争へ突入した。ブッシュは、テロに屈しない、軍事力による「強いアメリカ」を演出した。この判断がアメリカを後退させた。

アメリカはなぜあのときに、「なぜSeptember 11のようなテロをおこされるほどアメリカは憎まれるようになったのか」ということを自問自答しなかったのだろうか。戦争というのは敵が明確に見えていなければ成り立たない。アルカイダのようなネットワーク組織は、インターネットのエンパワーメントによって、組織ではなく、ネットワークによって行動を起こすことが可能になった。戦争を起こそうにも、ネットワーク相手では、どこに攻撃対象が存在するのか分からない。皮肉にもアメリカが戦争等における非常時のために開発したインターネットが、アメリカへのテロの最大の武器となった。

踊る大捜査線 THE MOVIE 2」は、組織対ネットワークの戦いだ。

踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ! [DVD]

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警察という組織は、犯罪者のネットワークとの戦いに苦戦する。この映画では最終的に、警察という組織が勝利を収めるがそのときのメッセージは、「リーダーが優秀であれば組織も悪くない」ということであった。さて、ブッシュはどうだったのか。

結局テロ組織との戦いに勝利することができず、少しづつ、攻撃対象をイラクという国家組織にすり替えていく。私は、正直言って、未だにブッシュとフセイン、どちらか世界にとって危険人物であったのか分からない。もちろん、民主主義というシステムの方がシステムとしてbetterであることは事実だが、そのシステムが選んだブッシュという人物と、独裁国家として権力を握ったフセイン、二人の人物のどちらが世界により害を生み出したか、と問われると判断がつかない。もちろん、8年前のアメリカは、良いか悪いかという議論は別にして、「世界の警察」としての役割を求められている時代であったし、ブッシュはその中で、最善の選択肢をとろうと努力したことを全否定してはならないのだが。

それにしても、アメリカは8年前に、「なぜ、アメリカはここまで世界に憎まれているのか」を自問自答するべきであった。そして、その自問自答した上で、「強いアメリカ」をどう演出していくか、知恵を絞る必要があったように思う。その当時世界は既に、パワーで押さえつけるアメリカを求めていたわけではなかった。


オバマのアメリカ

オバマは、"Change"、"Yes, we can."等のキャッチフレーズによって民意によって選出された大統領だ。ブッシュが選出された2回の選挙はどちらも接戦だった。すなわち、アメリカ国民の半数に否決された大統領ということだ。オバマは12年ぶりに、アメリカ国民の過半数「以上」に認められて選出された大統領だ。選挙直前にアメリカで流行ったyoutubeの映像がある。



この映像を見ると、アメリカの歴史が良く分かる。アメリカ人の価値観が時代とともに如何に変容してきたか。そして、この歴史の積み重ねと、ブッシュのアメリカに閉塞感が重なり、新たな"change"を求めた人たちの力により、オバマ大統領は誕生した。この映像は、そのアメリカ人の新しい時代を求めるentrepreneurshipそのものだと思う。

オバマが大統領になる前からバイブルにしていたのが、「フラット化する世界」で有名なフリードマンの最新作"Hot, Flat and Crowded"(邦訳: 「グリーン革命」)である。この本でフリードマンはアメリカの今後の道筋を明確に示している。

「ブッシュは、パワーで世界を抑えつけてきた。しかし、今の時代、アメリカは世界からrespectを集めることで強さを保っていかないといけない。」このフリードマンのメッセージはまさに今のアメリカの方向性を適切に捉えていると思うし、この本をバイブルとするオバマであれば確実にその方向にアメリカをかじ取りしていくであろう。


まとめ

私は、アメリカに、変化する力、新らしい時代を作りだすポテンシャリティがあると今もって信じている。少なくとも私の携わっている大学のイノベーション創出力と人材育成力の、世界的地位は決して揺らいでいない。人材育成は未来の国家を創造する財産の根幹だ。そしてオバマ大統領はそのアメリカをかじ取りしていくに相応しい大統領であると思う。これからのアメリカの未来が楽しみだ。


ただし、危惧することが2点ある。

1点目は、日本はオバマのリーダーシップのとる新しい「強いアメリカ」とどう協調していくか、ということである。respectに基づいた世界のパワーバランスはもはやゼロサムゲームではないので、アメリカが強くなったからといって日本が弱くなるものではない。日本が知恵を働かせて、アメリカと協調しながら、その存在感を強めていかなくてはならない。しかし、これは決して容易ではない。

2点目は、オバマ大統領がリーダーシップが失われる最大のリスクは「暗殺」であるように思う。オバマの敬愛するリンカーン元大統領、オバマと比較されることの多いケネディ元大統領。どちらも暗殺で、政権の幕を閉じた。今のアメリカで、オバマが政治的に失脚する可能性は低いと思うが、暗殺のリスクは、決して低くないように感じる。