Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

世界が直面する教育的チャレンジ -SFC中高同窓会幹事会に参加して感じたこと(3)-


はじめに
SFC中高同窓会の幹事会において、今後の同窓会の活動に関するブレインストーミングがあった。在校生に対する新しいプログラムの立ち上げ、卒業生の交流を促進するためのプログラムなど、色々なアイディアが出された。どのアイディアが具体的に実現可能かどうか良く分からないが、一歩一歩やれるものを実現していければと思う。

その中の議論で、卒業生が社会で学んだ知見を如何に母校にフィードバックできるのか、という論点もあったように思う。このときに、卒業生が社会で学んだ知見を、時代の流れを汲み取り、どのくらい大きなスケールの中で、フィードバックすることができるか。これは卒業生も試されているんだ、と思った。


世界が直面する教育的チャレンジ
その時に私が思いだしたのは、スタンフォード大学においてアントレプレナーシップを教えるTom Byersと会ったときに彼が言っていた言葉である。


1. How do we prepare students to be innovative and creative professionals?
2. How do we prepare students for a global workplace?


つまり今現在我々が教育において求められてるチャレンジとは、「いかにして生徒達に、イノベーティブかつクリエイティブなマインドやスキルを身につける準備の場を提供するのか」、「いかにして生徒達にグローバルな世界で働くための準備の場を提供するのか。」の2点である。

このことを端的に表すのは、以下のyoutubeの映像であろう。この映像は、元々2006年8月にコロラド州の高校の150名のスタッフ向けに作られたものだ。米国ではこのような視点から高校の教育の再構築の検討が始まっている。



私が在学中の授業内容
私が高校時代のSFC中高は、世界の新しい流れを汲み取り、まさに最先端の教育を受けることができたように思う。帰国子女が多く英語の授業はほとんどがNative Speaker、Shakespeareの原文を読むなどアメリカの英語の授業と同等レベルの授業内容、英語による模擬国連の実施、高校3年時の自由研究(卒業論文)、Unixを活用した電子メール等のITリテラシーの授業、Unix & S言語を活用した統計分析の授業、複数担任制、ゆとりの時間(自由選択の時間)、第二外国語、大学水準の経済学の授業、株の取引ゲーム、MESE(ビジネスゲーム)、現代文でのデザインに関する授業などなど。

これらの経験を今振り返っても、当時のSFC中高は、世界最先端の授業を展開していたと思う。


未来へ向けて
あれから15年経って、世界は目まぐるしく変化した。今の時代に相応しい学校の授業の在り方はドラスティックに変わっていかなくてはならないといけないように思う。

「土嚢事件」以来、SFC中高卒業生の中には、「昔では考えられないような出来事」に衝撃を受けたままの人が少なくないように思う。そのときの学校の事後対応についてもあまり良いうわさを聞くことはなかった。古き良き時代のSFC中高に対する懐古主義を持つ卒業生も少なくない。生徒へのしつけや倫理教育が大事だ、という論点も良く分かる。

私は中等教育のプロではないので、何が課題なのかは良く分からない。決して、一筋縄ではいかないような複雑な課題を抱えているのであろう。ただ、もし可能であるならば、どうやったら今ある問題を解決できるのか、という後ろ向きなことを考えるのではなく、未来を紡ぐために、どのような形で学校というシステムや教育コンテンツをデザインしていくのか、前向きに知恵を絞っていきたい。安易な発想だとも思うが、先生方が自分たちは世界最先端の教育をしているんだという気概を持ち、生徒たちが世界最先端の教育を自分たちは受けているんだ、というパッションを持てば、色々な問題も解決していくような気がする。

小さな提案をいくら繰り返しても、先生方は教育のプロだし、現場にとって役に立つ提案にはならないように思う。高校生の間にできなかったことを大学生になって実現しよう、というようなリニアな発想ではなく、豊富な社会経験を積み、グローバルな視野で世界の潮流を踏まえた、高校時代とはノンリニアな発想で、どう貢献できるか。もちろん、それが今の学校のニーズとかみ合うのかすら分からない。でも、ぜひそういった観点から新しい時代のデザインを提案していけるような人材になりたい、と改めて思った。