Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

KBC Brand-New Challengeへの期待

私がSIVを離れて1年以上経ちますが、それ以降のpost SIVのエコシステム全体の進化の中で最もすごいものを一つあげろと言われたら悩まずに、KBC実行委員会の"KBC Brand-New Challenge"を選ぶでしょう。この"KBC Brand-New Challenge"は、2008年度からスタートしました。


詳細: http://www.keio-contest.org/brand_new_challenge/index.html 参照。


現在米国の大学を中心に普及し、かつ注目されつつある概念の一つに「デザイン思考」という考え方があります。「デザイン」とは狭義の意味でのプロダクトのデザインではなく、ビジネスや社会に変革をもたらすイノベーションを達成する手法・考え方全般を指します。例えば、スタンフォード大学では近年、Stanford Institute of Design (d.school)が設立されて、学生に対して「デザイン思考」の教育プログラムを多数展開しています。このd.schoolは将来的にはビジネススクール(b.school)と並ぶ、社会における新事業を創造する人材を育成する機関としての役割を担うことが期待されています。

2008年6月には、KBC実行委員会の学生3人がスタンフォード大学に飛び込みで訪問し、「デザイン思考」の授業として名高い工学部のME310に参加し、その教育メソッドの調査を行ってきました。ここで獲得したノウハウを活用しながら、様々な学問分野の知識を融合して、社会の課題を解決するアイディアを考案・実装するプロトタイピングコンテスト、KBC Brand-New Challengeの企画・運営を担いました。合宿を含むこのプログラムには、各キャンパスに分散する多数の学部・研究科の学生が参加しました。キャンパスを横断したチームを組み、新しいデザインのプロトタイプを開発して、最終審査会にて発表を行いました。各チームは、慶應義塾に分散している各学部・研究科のそれぞれの強みを生かしながら、コラボレーションを行い、プロトタイピングの開発を行いました。最終審査会においては、デザイン分野を専門とする審査員からも、「デザイン思考の新しい潮流」と評価され、「すぐに事業化すべきだ」との評価を得る案件も輩出するなどの成果をあげました。

私自身、世界で開催されている多数の大学ベースのコンテストを今まで見てきましたが、KBC実行委員会による、KBC Brand-New Challengeは、他の大学の学生コンテストでも未だ成熟していない世界最先端の試みだと思います。もちろん、内容としては既にスタンフォード大学で実現されているものの延長線上です。私自身も「デザイン思考」やd.school、E310のことはSIV事務局長在任中から知っていて、いつかは実現したいと思っていました。そういう意味では内容としては、想定の範囲内ではありました。でも、それを実現するときは寄付講座など教員主導でやらないとうまくいかないだろうと思っていた私の予測を良い意味で裏切ってくれたのがKBC実行委員会でした。コンテストの企画内容・運営レベルを含めても、学生コンテストとしては、世界でも最高水準に達していたと思います。慶應義塾の目指す新実業先導を、学生主体で、かつ全塾を横断する形で具現化したこのプログラムの立ち上げは、慶應義塾のインキュベーション活動の未来にとっても大きな貢献だったように思います。

ちなみに、KBC実行委員会は、学生の生み出すイノベーションアイディアの事業化支援と、アントレプレナーシップ(起業家精神)育成プログラムの運営を行う学生団体で、2008年度の段階で、7学部20名の学部生により構成される全塾横断組織です。2005年度からスタートしたKBC実行委員会の活動も、はじめのうちは組織の基盤が弱くサステナビリティが実現できるかどうかが不安でした。それが2008年度の1年間で、本当に持続可能な組織に進化したように思います。

この活動に携わった歴代の実行委員・支援者を含めた全ての皆様への敬意と祝意を表すると共に、今年はますますパワーアップするでしょうから、後輩たちに期待して、今から今後の発展にワクワクしています。



PS この文章何かに似ていると思う人もいるかと思いますが、私も執筆に大きく貢献したのでお許し下さい。