Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

Fleming(2004) "Science as A Map in Technological Search


最近読んだ英語の論文にあまりにも感動したのでご紹介しておこうと思います。科学が発明に本当に寄与しているのか。どのような場合に寄与しているのかを特許情報を使って科学的に分析している論文です。自分の博士論文とも密接に絡む論文であろうと思います。


Science as A Map in Technological Search
Lee Fleming, Olav Sorenson
Strategic Management Journal 25: 909-928 (2004)


【概要】
長い間、科学は技術イノベーションを刺激し、経済成長に貢献してきた、ということは多数の先行研究により示されている。具体的には、科学研究への投資による成果と経済成長への影響、論文数の増加数の傾向による分析、大学の研究費と特許数の相関関係などを通じて、科学研究と技術イノベーションと経済成長の連関性の実証分析がなされてきた。
しかしながらこれらの先行研究にも関わらず、発明者たちはどのように科学を活用して良いかという点において、様々な意見を持っている。例えば大学においては、創薬と化学分野にその特許の多くが偏っている。またバイオテクノロジー及び創薬業界の企業が大学からのスピルオーバーを積極的に活用しているという分析もある。
なぜ発明者は科学について、このような分野に限定して有効活用しているのか。ある業種では組織の性質がアカデミアと企業の関係に影響を与えるのか。産業によって、科学と関わることにより得られる潜在的な価値が異なるので、企業行動のインセンティブに変化が生じるのか。組織の要因は間違いなくこの行動に影響を与えることは確かであるが、産業による差の方がはるかに大きい。例えば製薬会社は発明の27%は科学の応用によりコスト削減・遅延を防いでいると断言している一方、電気メーカは6%しか科学の応用ではないとしている。なぜこのような差が発生するのか。この答えを探るためには、技術の細部までのぞかなくてはならない。Nelsonによる「知識は発明にどのような影響を与えるのかを検証しなくてはならい」言葉の通りである。
 この課題を検証するために本論文では、「発明を行うにあたっての課題解決の困難性」が科学の応用による便益の差を規定しているという仮説を軸にした検証を行う。我々は、発明者が、密接に連結された構成要素に関する発明を行おうとするときに、科学が最も役立つのである、ということを主張する。イノベーション学の長い伝統の中で、我々は発明を既存の構成要素の結合であると概念化する。もし発明者が独立した構成要素(緩い関係の構成要素)の結合を行う場合には、様々な手法が応用可能である。しかしながら、この構成要素の関係が極めて複雑な場合、独自に様々な手法を試しても解決手法が見つからず、最適解を見つけることに失敗する。このようなケースにおいて、科学は発明を無計画な開発から、より効率的な解決手段を見つけるための方向で導く。
 我々の実証分析は、特許情報を活用し、科学の応用の便益の検証を行った。一般的な特許の分析手法に習い、特許のその後の引用状況の分析により、発明の成果の指標とした。結合度の分析については、特許のサブクラスがそれ以前にどのように再結合しているかを測定し、科学を活用しているかどうかは引用文献に学術論文が含まれているかにより判断した。我々の分析の結果は仮説を十分に支持するものであった。科学は、発明者が密接度の低い構成要素の結合を行うような発明では便益を提供しない。一方、発明家が複雑かつ密接な構成要素を結合するなどの特に難しい発明を行うときのみに、(地図を指し示すことで)便益を提供するのである。


【感想】

  • サイエンスの商業化が課題になるのは、構成要素の結合が複雑な産業のみである。
  • 基礎研究を「前期基礎研究」と「後期基礎研究」として概念化しているか、この論文における特許の分析手法がその分析に役に立ちそう。論文を引用しかつその後多数(統計分析が必要だが例えば100以上)の特許に引用される研究を「前期基礎研究」と呼び、その後の論文とその前期基礎研究の特許を引用しているものを「後期基礎研究」と呼ぶ。特許情報と論文情報のcitationの分析をすると、「前期基礎研究」と「後期基礎研究」の分類が可能かも知れない。
  • 色々な意味で、自分の博士研究の基盤となりうる論文であった。
  • 英語論文の構成として極めて良くまとまっており、自分が論文を書く際の参考にもなる。
  • 統計解析の部分について、英語的にも統計知識的にも理解が不十分であったため更なる勉強が必要。