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Science, Technology, and Entrepreneurship

政策研究大学院大学助教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

あっきーの壮行会

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昨日、10月より大阪赴任となるあっきーの壮行会に参加しました。少しでも勉強の時間を増やさないといけないので、自宅からの外出はほとんどしない身ですが、あっきーのSIVコミュニティへの貢献度は極めて高く、その感謝の気持ちを示したいと思い、参加させていただいて「贈る言葉」を述べさせていただきました。この会の準備をして下さった幹事の皆様に本当に感謝です。

あっきーを壮行することはもちろんのこと、SIVと丸の内は昔から相互連携をしていましたが、この会には双方の参加者が多数集まり、新たな未来へ向けた交流の場となったように思います。最近の学生は、当然のことながらSIV時代の雰囲気を知らない人の方がもはや多いのですが、今回は久々に旧SIVのコアメンバーの多くが集まり、同窓会のような雰囲気で、"old good SIV style"な会になったのではないかと思います。SIVはこういう雰囲気のコミュニティだったんだ、ということを次の世代に伝える場にもなったのではないかと思います。また、SIVが終結してから1年半の間に、若手の皆さんがどれだけでっかく成長したか、ということも見ることができたことは私にとっても励みでした。こんな会はもう後数年はないかも知れないですね。

そしてSIVに加えて、創生ビレッジの持つ未来志向、横の大学の連携などの多様性が加わったことは新たな刺激だったなと思います。

私にとっては、年内にこのような壮行会を含めて交流会的イベントに参加させていただくのは、今回で最後かなと思います。昨日は久々に懐かしい皆さんとお会いできて息抜きをさせていただきましたが、また勉強の日々に戻ります。

さて、今回のスピーチ、書く時間はほとんどとれず突貫工事だったのが申し訳ない限りですが、少ない時間で精いっぱいの気持ちを込めたつもりです。そのスピーチを掲載しておきます。

あっきーへ贈る言葉
2009.9.25
牧 兼充


 あっきーの大阪への転勤にあたり、あっきーの人生にとって、最も悪影響を及ぼしたあろう仲間の一人として、本日は、2つのメッセージをお送りさせていただきます。このメッセージも恐らく悪影響であろうかと思いますので、お酒でも飲みながらリラックスして聞いて下さいね。ちなみにたった二つのメッセージなんですが、思いを込めているうちに、長くなってしまいました。皆さまの貴重なお時間をいただくことお許し下さい。


 1番目のメッセージは、「あっきーの魅力」という話です。今回のあっきーの転勤にあたっては複数のコミュニティの人が、あっきーの壮行会をやりたいと考えていました。多様な人が壮行会をやりたいと思う、あっきーの魅力とは何だったのだろう、と考えてみたときに思いだしたのが”favor bank”という言葉です。この言葉は皆さん耳慣れないと思います。”favor”というのは英語で好きな意思と書いて”好意”ですから、好意の銀行という意味です。英語で相手に頼みごとをするときに”Could you give me a favor?”という表現を使います。このときに相手に”favor”がなければ、お願いは受けてもらえません。また一方的に頼みごとばかり繰り返すと、相手は嫌気をさしてしまいます。この”favor”は、常に変動しますし、決して金銭的価値に換算できるものでも、日本語でいう「貸し借り」でもありません。「相手からお願いされることがうれしい」もしくは「相手が喜ぶことがうれしい」という気持ちなんです。人は誰もが相互に”favor bank”を持っていて、そこに預貯金をしています。この仕組みは、コミュニティが健全に成長していくための必要条件です。

 “favor bank”の預金をためることは決して簡単ではありません。4つの大切な”attitude”、すなわち心構えがあります。

 第1の”attitude”は、共通の思い出を大事にする、ということです。共通の思い出を持っている人同士は、その思い出を源泉とした”favor”を持つようになります。SIVも日本創生ビレッジも、魅力的な人材を集め、魅力的な人材を育成し、魅力的な人たち同士のインタラクションを誘発していくという、「記憶に残る思い出」を紡いでいく舞台装置でした。そのコミュニティの中核として、大きな貢献を果たしたあっきーは、多くの方々と「思い出」を共有してきました。ちなみに、「一生の思い出となる決定的な瞬間」に居合わせることは特に重要なんですが、あっきーはいつもそういう場に居合わせていたように思います。

 第2の”attitude”は、将来の夢・志を持ち続ける、ということです。一生懸命がんばってる人には必ず”favor”が集まります。あっきーは、困難な目標に向かって果敢に挑む根性を持ち、どんなに辛い状況でも決して逃げることない人です。あっきーのような、未来への夢を託せる人材には必ず、”favor”が集まります。

 第3の”attitude”は、相手の気持ちを大切にする、ということです。周りの人を楽しませること、勇気付けること、困っていそうなときにcompassionを持ち一声かけること。こういった行動により、”favor”が貯まります。あっきーはそういったきめ細かい相手への気遣いが抜群な人です。

 第4の”attitude”は、多種多様なつながりを大事にする、ということです。人は誰もが、同質な人とだけ付き合っていた方が居心地が良いですから、異質な人とは距離を置こうとする心理的特性を持っています。その状況の中で、自分に自信を持ちながらも、異質な人を受け入れる余裕をどのように持っていくか。そのときに一番大事なのは、相手の年齢や立場に関係なく、フラットな人間関係において相互に”respect”を持ちあうことができるかどうかです。世の中には、年齢差、社会的地位、バックグラウンド、能力といったレトリックを使って人間関係を作る人が沢山います。でもそれは、「おごりとごますり」、「権力の利用」であって、”favor”ではありません。本日の壮行会に、学生から社会人、メンター等、多様な方が集まっているということは、あっきーがまさにこのフラットな人間関係を構築し、多くの人たちから”favor”を集めてきたことの表れだろうと思います。

 私は今まで多数のコミュニティ運営に携わり、多くの方と活動をご一緒してきました。その中で、あっきーほど、多くの皆様の”favor”を集めた人はいませんでした。私は”favor bank”を作るのは本質的に苦手です。私が逆立ちしてもかなわないあっきーの魅力、それはこの”favor bank”を保持し育んでいく能力なんだと思います。これから新天地に行ってもぜひこのあっきーの魅力を持ち続けて欲しいと思います。


 2番目のメッセージは、「エコシステムの新たなる発展へ向けてあっきーがこれからできること」という話です。これはあっきーへの贈る言葉であると同時に、私自身への自戒のメッセージでもあります。あっきーは大学4年の4月にこのエコシステムに参画し、在学中に1年と卒業してからも約1年半、慶應義塾や日本創生ビレッジのエコシステムの発展に多きな貢献をしてきました。そんなあっきーにとって、新しい人生のフェーズとなる今回の大阪赴任は、このエコシステムから距離が出ることで、正直、心配や不安、寂しさもあるのではないかと思います。そんなあっきーに、このエコシステムの更なる発展に向かって貢献していくために一番必要なことは何か、ということをお伝えしたいと思います。それは逆説的ではありますが、「今後このエコシステムの発展にはなるべく貢献しない」、ということです。

 2005年3月に私はボストンを訪問しました。その際に、ボストン大学に留学していた高校の後輩と食事に行きました。彼は慶應義塾大学卒業後、ボストン大学でコミュニケーション論の修士の勉強をしている最中でした。内部進学で初めての海外ですから英語も決してできない中、日々奮闘している毎日でした。彼は卒業後アメリカの広告代理店への就職を目指して活動中でした。ただでさえ英語が不十分、そして広告代理店というのは言語以上に共通の文化が必要とされる業種です。彼にとって最も茨の道を選択していました。その彼に、「どうして日本に戻って、日本で就職を考えないの?」と疑問に思って質問をしました。そのときの彼の答えは、「自分は慶應の環境が大好きだし居心地もいいし今まで一緒にやってきた仲間も大好きだ。でもその仲間とは、10年後に再会したときには昔と同じノリで仲間としてつきあえる自信がある。そう考えるとそれまでの間に、どれだけ自分の仲間と違う体験をして、どれだけ自分の仲間が出会ったことのない人たちと仲間になれるのか。それが10年後に自分が仲間に貢献できることを規定するんだ。だからアメリカでこれからもがんばる。」というものでした。この言葉は極めて示唆に富むものであろうと思います。

 慶應義塾のエコシステムも日本創生ビレッジのエコシステムも、どちらもあっきーが例え10年離れていても、再び戻ってきたときに、「昔と同じノリで仲間としてつきあうことのできる」人たちが集まったエコシステムだと私は確信しています。

 さて、エコシステムというのは手入れをしないと、”diversity”の少ない”homogeneous”なコミュニティになってしまう危険を常にはらんでいます。そんなところからイノベーションは決して生まれません。新陳代謝がないとダメなんです。

 という訳で、あっきーにはこの大阪赴任を機に、これからはこのエコシステムへの貢献を考えるのではなく、ぜひ新しい世界を開拓して下さい。あっきーが大阪で、このエコシステムの他のメンバーが知らない体験をどれだけすることができて、他のメンバーが知らない仲間をどれだけ増やせるのか。

 「このエコシステムの発展への最大の貢献は、あっきーが今後このエコシステムの発展になるべく貢献しないことだ」。この言葉は誰にでも贈ることのできる言葉ではありません。この言葉は、既に”favor bank”の預金の沢山ある人にしか贈ることのできない、贈るときに勇気が必要な言葉です。

 今回のあっきーの転勤の話を聞いたときに、私個人の率直な感想で言えば、最初に感じたのは「寂しさ」でした。あっきーが少なくとも1年大阪に赴任するとすれば、私は来年から海外へ行きたいので、「同じ街で過ごすこと」はもう10年近くはない、ということです。私よりも一足早くこのエコシステムを離れる、というチャンスを掴んだあっきーには、ぜひ大阪にて新しい世界を開拓してもらって、10年後に「昔と変わらないノリで付き合える仲間」として、お互いの「新しい世界」を見せあえる日を夢見て、切磋琢磨していきましょう。そしてまた一緒に活動するときには、お互いに新しい仲間を引っ張り込み、このエコシステムに、新しい血を注入しましょう。そのときにはこのエコシステムは、より”diversity”の強い強固なものに進化し、皆にとって更に楽しくワクワクする場となるだろうと思います。


 結びにあたり、あっきーの大阪でのますますのご活躍を祈念し、また本日ご臨席の多様なバックグランドを持つ皆さまの、ますますの”favor bank”の預貯金の活性化を願い、あっきーへの贈る言葉とさせていただきます。どうもありがとうございました。