Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

The 40th St. Gallen Symposium参加から学んだこと (5) -グローバリゼーションの中での米国の役割-


このシンポジウムでは、Prof. Kishore Mahbubani氏の"Next Tsunami"を始めてとして、金融クライシス後の世界の秩序がどうなっていくのか、という議論が多数展開されました。アジアの台頭もあれば、世界的な問題解決へ向けてはG8は機能不全に陥っていて、世界の様々なプレイヤーが協調していかないといけない、小さな政府が万能な訳ではなく政府の新たな役割を模索しなくてはならない、など示唆的なメッセージが沢山でした。


さて、このシンポジウムの一番最後のセッションは、ハーバード大学歴史学者、Prof. Niall Fergusonによる、"Entrepreneurial freedom in the new global financial system"でした。さすが歴史学者だけあって過去の金融恐慌について分析を行い、今回の金融クライシスの問題は、株価の暴落の深さではなく、その長さにあるとの指摘はなるほどな、と思いました。「天使と悪魔」に出てくるラングトン教授らしい話しっぷりで、さすがにプレゼン上手だなと思いました。


彼の言葉で印象的だったのは、"There is no future, singular. There is a past, singular and there are futures, plural. We always have several scenarios to choose."という言葉でした。これはなるほどな、と思わされました。


しかしながらこのプレゼンの後半では、西洋の産業革命と起業家にフォーカスされ、最後のまとめは、「世界が今中国に対しての危機感を持っているけれども、それに対抗できるのは西洋のアントレプレナーシップだけだ」というメッセージで、せっかく世界のみんなで協力していこうという雰囲気だったのに、その雰囲気を台無しにされた気分でした。


先日、イギリス人とデンマーク人と飲む機会があり、この話しをして、「という訳でこれからはあんたたち西洋人の出番らしいよ。がんばってね!」と言って、ブラックジョークを言ってみたところすかさず、「アメリカの人が西洋と言った場合にはアメリカ人のことだけなんだよ。ヨーロッパ人はスコープの外。だから僕らは君らの仲間だよ。」との返事でした。さすが、ヨーロッパ人、切り返し力抜群。


これからの世界の秩序を世界の人はどのように考えていて、アメリカ人はどのように考えているのかが良く分かる一コマだったように思います。


「世界は多様化し、それぞれの地域の起業家が世界の新しい富や秩序を作っていく」という方向性は間違いのないものであるように思います。いくらハーバードの歴史学者が何を言おうとも、過去と未来は違う。歴史と未来を作ることは別物なのです。