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Science, Technology, and Entrepreneurship

政策研究大学院大学助教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

プレートにこめられたPhilanthoropistの思い

イノベーション


私が色々な大学にいって必ずすることの一つに、建物のプレートを見るというものがあります。日本の大学ではまだそこまで多くないですが、世界の大学では、寄付を受けて建物を建てるかわりに、建物名に個人名や企業名をつけているところが少なくありません。その建物の中には必ずプレートが表示されているところがあり、どのような人がどのような思いで寄付をしているかが分かるようになっています。ここを深く読み解いていくことで、その大学を取り巻く物語を垣間みることができます。寄付をはじめ社会貢献をする人をPhilanthropistといいますが、このPhilanthropistは大学にとってもっとも重要な協力者です。


私のオフィスがある建物は、Ottersonといいます。こちらに来るまではこの名前は知らずに、きっと寄付をしたSan Diegoの起業家の名前だろう、くらいに思っていました。こちらについて建物内を歩いているうちに、この建物のプレートを見つけました。そのプレートを良く見てみるとOttersonというのは、UCSDのCONNECTプログラムで最初のEntrepreneur in Residenceとのこと。ちなみに、このOtternsonを25年前に雇ったのは私が昨日会いにいったMary Walshok。私のいるRady School of Managementは、大学の研究とビジネスをつなげることを目的としているので、CONNECTの最初のEntrepreneur in Residenceの人を建物名にするのは良く分かります。("TWENTY FIVE YEARS OF INNOVATION"参照)



Otterson Hall



Ottersonのプレート


そもそもUCSDに私が興味を持ったきっかけがCONNECTプログラムだと思うと、その最初のEntrepreneur in Residenceの名前を冠した建物に今いるのは、奇遇のような気もするし、必然なような気もします。色々な思いが一本の線につながった気がしました。


ところで、こういったプレート、慶應にもありますよね。私が慶應で最も思い入れの深いプレートは、日吉協生館の「藤原洋記念ホール」のプレートです。



Special thanks to Tomohiro Hanazaki.


このプレートには、"Construction of this hall was made possible by a generous donation from Dr. Hiroshi Fujiwara, recognizing Keio Univeristy's significant contribution to the advancement of the Internet technology. August 2008" と刻んであります。Philanthropistである藤原洋さんは、インターネット総合研究所の所長として、インターネットビジネスを立ち上げて成功をおさめ、個人としてを寄付して下さったのです。私自身は、もともとインターネット畑にいて、そこから大学のインキュベーションに興味が広がりました。その意味で、"慶應義塾のインターネットの発展への貢献"にも、"ベンチャー企業"にも、"大学への利益還元"にも強い思い入れがあります。ぜひ藤原さんの思いを継ぐような人を育てたいというのがSIVのミッションでもあったように思います。その意味でこのプレートを介してつながる藤原さんと私の思いの共通項は多い、と思っています。

日本で、個人名を冠した建物や施設というと、とかく寄付者の名誉欲のためにやっている、と勘違いされがちです。でもそれは表面的にしか物事を見ていないように思います。建物・施設が寄付により作られることで、次の世代はより恵まれた環境を享受します。それと同時にこのような寄付者の名前だったりプレートを作ることによって、次の世代はその大学でどんな物語が紡がれてきたのかを知ることができます。それがきっかけとなって次の世代がまたその思いを引き継いでいく。次の世代に思いを伝えたいという強烈な意思が、寄付、冠、プレートにはこめられているんだろうと思います。このときにもしPhilanthropistの思いを個人の名誉欲と誤解してしまったとしたら、それは日本の大学の発展を妨げる大きな勘違いです。


そんな意味でいうと、KBC実行委員会がビジネスプランコンテストを「藤原洋記念ホール」で開催する意味は大きいと思います。インターネットxビジネスに慶應義塾がどのように貢献してきたか、その物語を知った上で、新しいビジネスを創出していく。新しいビジネスを立ち上げようとする人にはぜひこのプレートを見てほしいなと、思います。例えば、優勝者はこのプレートの前で記念撮影をすると、この物語を知る良いきっかけになるのかも知れません。


そういえば、藤原さんに7月に飲みに連れていっていただいたときに、藤原さんの今携わっているベンチャーが成功した際に寄付するときには、「藤原洋記念ホール」よりももっと良い寄付の方法を考えます!と約束したんだった。きちんと寄付いただけるように、意味のあるものをしっかり考えなくては。


大学というのは、物語を紡ぐことで文化を継承し発展していく場です。大学のインキュベーション活動というのも、すぐにビジネスとして実績を出そうとするのではなく、どんな物語を紡ぎ、それを如何に大きなストリームにしていくか、ということが求められています。そのためには、多くの人を集められる構想力が必要ですね。大学というのは、文化資産を蓄積していく場なのです。