Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

渡米してちょうど1年たちました


早いもので、今日で渡米してからちょうど1年です。この1年間色々と大変なこともありましたが、どうにか少しづつこちらでの生活に慣れ始めているように思います。

この1年間で、沢山のことを学び、沢山のことを経験し、随分自分自身の視野が広くなったように思います。僕の場合、日本で普通の人とは随分違う経験をしていたからこそ、こちらでの経験が、視野を広げることに直結しているんだな、と痛感することが日々沢山あります。

留学1年目にあたって振り返るのに一番適切な指標は、こちらでの留学にあたって奨学金をいただいている吉田育英会へ応募したときの願書の志望理由を振り返ることのように思います。この願書には私が留学したいと思った志がまとまっています。そこで、この願書の内容と現状を比較してみようと思います。ちなみにこの願書を書いたのは留学を決意した頃で、2009年10月18日です。

現在の研究内容の現時点での進捗状況について(具体的に分かりやすく)


私は、過去6年間、慶應義塾大学におけるインキュベーションプロジェクトの事務局長として、大学を基盤としたベンチャー育成、アントレプレナーシップ、イノベーションに関する研究・実践活動に従事してきた。このプロジェクトは、6年間を経て、日本を代表する大学発ベンチャープラットフォームへと発展し、実践の傍らで、多数の学会発表及び論文の執筆を行ってきた。

この活動に携わる中で、大学発ベンチャーの育成、イノベーションの創出においては、研究・開発・事業化・産業化それぞれの段階において、超えることが困難なギャップが存在することが明らかとなった。現在博士課程においては、このギャップの存在に関する理論的な検証とその解決策のための制度設計をテーマとして、研究活動を推進している。

近年、「オープン・イノベーション」の進展により、ナショナル・イノベーション・システムにおける大学の役割が高まった。大学は、イノベーションの源泉としての役割を担うための新たな制度設計が求められている。本研究は、大学のイノベーションを阻害する要因を明らかにし、その解決手法を設計するものであり、我が国のイノベーション力の向上に大きく貢献するものである。

本研究の主たる目的は3点ある。第1は、大学の研究費の資金源別による特性が研究者のインセンティブやイノベーションの誘発にどのような影響を与えるかを分析することである。大学における資金調達手法は、寄付金、国からの受託研究、産学連携による共同研究等の多様な手法があるが、それぞれの特性に応じて、研究からイノベーションを創出するメカニズムが異なる。第2は、大学における研究のイノベーション・プロセスに着目し、資金調達におけるギャップを特定することである。先行研究により、技術のビジネス化における研究プロセスには多数のギャップが存在することが明らかとなっている。しかし、大学におけるイノベーション・プロセスにおいては、例えば基礎研究のプロセス内においても、ギャップが存在する可能性があり、今後の研究・検証の余地が大きい。第3は、国内外の大学において推進しつつある、投資ファンドを活用したギャップを埋めるための研究資金獲得手法に着目し、ケース・スタディ分析を行うことである。

本研究の進捗状況としては、先行研究の調査及びRQの構築が完了したところである。今後は、データの収集手法の検討、モデルの構築、データの収集、論文の執筆を進める。


研究内容については、細かいアプローチはこちらでの環境で変わりつつあるものの大枠の研究テーマは全く変わらず、着実に一歩一歩進んでいるように思います。こちらの研究者からデータをもらったり、仮説の構築に日々取り組んでいます。研究手法についても、日本にいたときとは比べ物にならないほど、研究のための基礎知識をこちらで学んでいます。

あなたが研究を進める上で、なぜ海外留学が必要だと思いますか?


本研究を推進するために、海外留学が必要な理由は3点ある。

第1点は、国際比較の重要性である。本研究は、ナショナル・イノベーション・システムの強化のために、イノベーションの源泉としての大学の役割を分析し、新たな制度構築を行うものである。そのためには、日本のみを対象とするのではなく、先進事例との比較検証が重要である。米国はこの分野における先進事例であり、データ収集を行うチャンスを得ることが可能となる。

第2点は、イノベーション分野の研究者は米国に多く集積していることである。最新の理論を学び、研究の議論を行うためには、先端的な研究者の中でもまれることが有益である。

第3点は、先端的な大学のイノベーション・システムの中に自ら身をおくことができることである。本研究を推進するためには、自らそのイノベーション・システムの一部として、活動することが問題意識の精査のために重要である。

以上の理由により、海外留学を強く希望する。


こちらについても、アメリカに身をおくことにより、米国のイノベーションシステムの理解がどんどん深まり、またこちらの研究者との協調のチャンスもどんどん増えています。ここに書いてある3点が文字通り実現できています。

留学後の進路希望について(海外留学において修得したことを、将来あなた自身と社会のためにどのような形で活かしたいですか?)


博士課程留学後は、数年間研究員等で更なる修行を積んだ後に帰国し、日本の大学において勤務したいと考えている。帰国後、大学においては、以下の活動を行いたい。

  • イノベーション・システムに関する研究を引き続き行う
  • 大学のイノベーション・システムの設計
  • アントレプレナーシップ人材の育成
  • イノベーション人材の育成
  • 我が国のナショナル・イノベーション・システムの設計

私の海外留学中における研究は、上記のすべての活動の基盤となるものである。これらの活動は、将来的に我が国における国際競争力の向上に大きく貢献するものであると考えている。


こちらについては、アメリカでの生活を通じて、ここに書いてあるようなことももちろん引き続き目指していますが、それ以上に大きなスケールで、今後のキャリアを捉えるようになったように思います。分かりやすくいうと、留学前よりも今の方がはるかに未来志向で、過去にしがらみに捕われず、今後のやりたいことが見えるようになりました。

留学中に学業・研究以外の分野で興味のある事について


私は過去7年間、大学を基盤としたアントレプレナーシップ育成及びイノベーション・システムの構築に従事してきた。将来的に、日本の大学において、真に国際競争力のあるアントレプレナーシップ育成及びイノベーション・システムを構築したいと考えている。そのためにも、留学中には、この分野の学生活動・イベント、ベンチャー企業との交流に積極的に関わっていきたいと考えている。


ここについては、もともと私の専門分野でもありますが、色々なイベントに顔を出したり、Global CONNECTと関係をもったり、サンディエゴのネットワークを広げたり、ここに書いてあることがそのまま実現できているように思います。


そんな訳で、留学を目指していた頃の志が、当時予想していた以上に、アメリカでの生活で実現している、と思った渡米からの1周年でした。