Science, Technology, and Entrepreneurship

政策研究大学院大学助教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

「世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア」

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア


ニューヨーク州立大学バッファロー校にいらっしゃる入山さんの著作です。実はこの本、出版前にいくつかの章について事前に草稿を読ませていただいて、気づいたところをコメントさせていただきました。そのコメントがお役にたった自信はあまりないのですが、自分自身も草稿を読ませていただく段階で学ぶことが多く、出版を首を長くして待っていました。入山さんご本人から献本いただいたのでお礼を兼ねて、ブログに書評をまとめます。この本はいくつかの観点から多くの皆様にお勧めです。

第一に、アメリカの経営学のアカデミアの現状を極めて適切に解説している点です。私自身も渡米してから、日本の経営学とアメリカの経営学の研究のギャップを大きく感じてきたので、この現状を日本の人たちにどように伝えていいのか、ずっと悩んでいました。この本で書いてある経営学には、「経済学系」「認知し林学系」「社会学系」の3つのディシプリンがあるという議論は、私自身も実体験として納得です。

第二に、経営学、その中でも特に経営戦略論に関連する最新のトピックを「Part II: 経営学の知のフロンティア」において、網羅的に解説している点です。ハーバードビジネスレビューや本として出版されるような研究は、決して経営学の最先端のトピックであるとは限りません。ましてや日本語に翻訳されるような内容には偏りがあります。経営学は、実践に役立つことを目的とした学問であるとするならば、最新の研究の成果を実務家がわかる形で解説することは極めて重要です。そのようなアカデミアと実務家のギャップを埋めるような本が日本語で出版されたことは、日本においての経営学の流れを変える大きな貢献になるように思います。でも、ちなみにこのような本、英語でもあんまりないので、英語でも欲しいジャンルの本のようにも思います。

第三に、経営学というのはどういう学問かを改めて考えるためのフレームを身に着けることができる点です。アメリカの経営学の研究は、定量分析の比重が極めて高くなりつつあります。日本の経営学で主流となっているようなケーススタディをアメリカで見かけることは減っています。でも経営学というのは、全体の傾向を知ることよりも、ある特異な現象がなぜ起きたのか、ということを追いかけることも重要です。例えば具体的にいえば、IT業界全体を分析しても、なぜグーグルが成功したかを理論化することはできません。そのような意味で、経営学の現状の課題分析と、今起きつつある変化の議論は極めて示唆に富んでいます。



さて、この本はどんな人にお勧めか、ということを最後に述べておきたいと思います。

第一にMBAで現在学んでいる人たちです。もちろんMBAは研究をする場ではありません。でも、MBAで学ぶトピックの多くは経営学の理論に基づいています。MBAで学ぶ際に本当に重要で差がつくであろうと思われるのは、理論を学ぶ能力ではなく、理論を実践に活用していく力です。その際に、経営学の研究動向のトレンドを背景として理解しておくことは、学んだ理論を体系的に理解し、また実践に活用していく上で必ず役立つはずです。これはもちろん、これからMBAで学ぼうと思う人、もしくはビジネススクールの知見を実務に活かしたいと思う人全般にあてはまります。

第二に将来的に将来的にアメリカに留学し、博士課程に進学を志す人たちです。アメリカのMBAはスクールによって特色がありますが、その中でも、経営学の「経済学」「認知心理学」「社会学」のどのディシプリンの研究者が多いスクールか、というのは具体的に指導教員からの指導体制にも反映されます。例えば、マーケティングであれば、経済学の強いスクールにおいては限りなくミクロ経済寄りの内容になるでしょうし、認知心理学の強いスクールであれば、心理学寄りの内容になるでしょう。そして、何より、この3つのどのディシプリンが自分にしっくりくるかは、好みによって大きく分かれるでしょう。恐らくこの3つの思考法は「正しさ」が異なるし、自分にとっての得意不得意も大きく出るように思います。そして恐らく、自分の好みに合う領域の研究者が多いスクールに行くことは極めて重要です。

第三は、経営学の研究全般を志している人たちです。研究者としてのキャリアが日本国内に限定されている人にとっては、国外の研究動向をとらえることに有益でしょう。その他、大学生で卒論のテーマを考えるにあたっても、こういったトレンドを理解することは極めて有益です。


という訳で、みんなぜひ読んでね。これに基づいて一緒に議論しましょう。