Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

誕生日を迎えて - 30代を振り返る

あっという間に40代に突入してしまいました。不惑の年と言いますが、多分人生100年で考えるような時代においては、40歳というのは昔でいうと30歳くらいの感覚に近いのではないか、という気がします。40歳くらいがある程度基礎が固まるような段階で、不惑になれるのは50歳くらいになったときの気がします(言い訳、問題の先送りともいう)。せっかくの機会なので、自分自身の30代を振り返ってみようと思います。

 

今でも30歳になった時のことを思い出します。僕が30歳の誕生日を迎えた頃というのは、慶應の助手・助教になって6年目でした。SFCのインキュベーションのエコシステム構築の責任者としての立場で、それなりに実績をあげていたけれども、このままでは次のステップにいけないと思い、仕事を辞めて博士取得に専念することを決意したのがちょうど30歳になる少し前でした。なので、30歳の誕生日というのは、これから自分がどのくらいものになるかも分からず不安でいっぱいでした。

実はその時にもう一つ自分が決心したことがありました。それは慶應のネットワークの外にでる、ということ。20代の頃のSFCのインキュベーションの仕事はそれなりに実績を出すことはできたけれども、どうしても慶應コミュニティの中で内向きになってしまう側面がありました。慶應のコミュニティは日本社会ではとても強いし、ある意味東大以上に日本社会においてエスタブリッシュメントなので、それがプラスに働くときも多々あります。でも例えばベンチャーイノベーションのような分野では、この慶應コミュニティの求心力が内向き志向を強め、結果的に弱みになってしまう、という側面も感じ始めていました。やっぱりその延長線上では、世界で戦えるレベルの大学のイノベーションを生み出すことはできない、と思ったのです。

30歳の時に自分のレジュメを振り返って、もう一つ感じたことがあります。僕がSFCに進学するようになったのは、高校1年生の時だから15歳です。そうすると30歳の段階で、人生の半分の15年をSFCで過ごしたことになる。レジュメを見ても、学歴も職歴も慶應ばかり。自分自身も慶應に依存しすぎていたと思うし、僕が慶應の中でも求心力を持てるのも、自分の実力というよりも、ただ長くいるから、という理由だったようにも思っています(周りもそう思っていたと思う)。自分のマーケット・バリューが、自分の母校のブランドに依存してしまっている、という状況は、ちょっと脱却しないといけない、と感じてました。

これもう少しいうと、組織依存的な能力を高めるのではなく、もっと汎用的でどの組織でも通じる能力を身に付けたいと思ったということです。

そんなわけで、自分のキャリアのためにも、自分が本当にやりたい仕事を実現するレベル感の意味でも、キャリアとして色々な組織やコミュニティを体験したいと思い、それが結果的に、30歳の時に方向付けた、30代の過ごし方の目標だったように思います。

全てが30歳の時に思い描いたようにスムーズに進んだわけではないけれども、でもスムーズでなかった分、新しい広がりが増えた部分もありました。32歳でUC San Diegoに留学して37歳で博士を取得して、スタンフォード政策研究大学院大学を経て、39歳で早稲田ビジネススクールの准教授になりました。日本に戻ってきても、UC San Diegoで授業を教え続けていたり、海外とのプロジェクトにも多く関わっています。

米国の大学で博士をとると、出身大学でそのまま採用されることは基本ありません。というのは、出身大学の採用は実力というよりも縁故採用の要素が強くなってしまうからです。もっというと、マーケットに出る実力がなかった人が母校に残る、というような見られ方をしてしまいます。その意味でいうと、自分が母校以外で、どれだけ良いポジションを持てるか、というのが研究者としての一つの大事な指標だとも思うのです。多分そのレベルでのマーケットで戦えるような人材でないと、世界で戦えるようなイノベーションを生み出す大学には貢献できないように思います。このグローバルに戦えるようなレベル感の能力を身に付けることができるかも、結果的に組織依存ではない汎用的な能力を身に付けることの必要条件でした。

多分、今の僕をみて、30歳の頃のように、「慶應のことしか知らない人」と思う人はほとんどいないんじゃないかと思います。その意味では10年かかったけれども、30歳の頃に感じていた自分の目標、結構達成できたかな、と思っています。どの大学でも戦っていける自分の力、とても大事だと思っています。

キャリアを考えると、10年くらいのスパンでは、その前にやってきた自分が大事にしてきたことを捨ててでも新しいチャレンジすることってとても大事だと思います。