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早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

シアヌーク殿下と小泉首相のカラオケ -「実録 小泉外交」を読んで-


ここ数日間、体調を崩して寝込んでいたので、色々な本を乱読しました。そのうちの一冊がこの「実録 小泉外交」。


実録小泉外交

実録小泉外交


飯島秘書官が小泉総理の51回の外遊及びその外交の記録をまとめたもの。前著「小泉官邸秘録」では、外交の比重を下げていたので、今回は外交のみを切りだしたということらしい。

全体を読んでみて、

  • 小泉外交というとブッシュとの盟友関係をベースにした日米同盟を思い浮かべがち。でも実際には、アジアを重視し、またアフリカ・中東など、過去の総理が訪れていない国との新たな関係を築いてきた。
  • トップレベルの外交は、外務省による外交と大きく違う。トップの人柄にも大きく依存し、二国間の関係を飛躍的に深める効果を持つ。
  • 小泉元総理の、ネットワーキング能力の高さが、日本外交を引っ張ってきた。
  • 外交とは、力関係による競争よりも、国際間の協調が重要。
  • 総理大臣の外交のスケジュールのハードさは並大抵ではない。自分だったらきっと倒れている。

などの感想を持ちました。


この本を読んで、何か所か印象深かったところを引用してみます。

2004年6月のシーアイランド・サミット

この日の夕食はかなり遅い時間からになったが、駐米公使の阿川尚之さんとともにアメリカ南部の料理をいただいた。阿川さんは慶応大学の教授などを経て駐米公使を務めていたが、お父さんが阿川弘之さんということで、お父さんの人柄や『山本五十六』などの著書の話で盛り上がった。三日間タイトなスケジュールをこなし、ほっと一息というところであった。

そういえば、今やSFCの総合政策学部長の阿川さんも、この頃は駐米公使だったんだなと思いだしました。阿川さんがワシントンに駐在中に、2回ワシントンにいって、朝食をご馳走になりました。あの頃の阿川さんは、颯爽としていて外交官という感じで格好良かったです(今も格好良いけど)。

2002年11月のカンボジア/ASEAN+3首脳会議

こんな出来事もあった。現地時間午後八時からシアヌーク国王夫妻主催の晩餐会が王宮で開かれ、総理と上野副長官が出席している間、我々(秘書官・参事官一行)は小川大使と食事し、晩餐会が終わりそうになったら連絡をもらってホテルに戻って総理を出迎える手はずであった。二時間ほどしても連絡がないので、様子を聞こうとこちらから連絡してみると、国王がカラオケで上機嫌で終わる気配がないとのこと。結局ホテルに戻ってからも延々と待つことになった。途中、「昴」を歌っているのでまもなく終わるのではないかとの連絡があったが、それからさらに二時間くらい待ったように記憶する。
ホテルに戻った総理から聞いた各国首脳の困惑ぶりをここで書けないのが残念である。「中国は晩餐会前に帰国したが、(国王のカラオケ好きを)知っていたからなのかな。これは次の総理への重要な引き継ぎ事項だ」というのが深夜の結論(?)だった。

この箇所は、この本の中でも一番の笑いところかも。やっぱり「国王といえども人間」、「各国首脳といえど、人づきあい」なんですね。どこでも一緒。


さて、次が最後。

あるアフリカ大使の言葉

過日、私はガーナ大使の公邸に招かれ、近隣諸国大使とともに夕食をとった。その席で、あるアフリカの大使が言ったことが印象的であった。
「日本は大国です。私の国のようなところから見れば、とても大きい。まぶしいくらいに大きい。でも、私の国は、日本と対等にお付き合いがしたい。日本にとって必要な国、役に立つ国でありたい。我々が求めているのは『援助』ではなく『貿易』です(not aid, but trade)。つい最近、国境近くの難民のために日本が物資を援助してくれました。それはとてもありがたいことです。感謝します。でも、本当に必要なのは、お互いの国がお互いのために必要なことができる国同士であるということ、互恵の関係を作るということです。だから、我々は『貿易』を望むのです」
この大使の国を思う気持ち、自国への矜持が痛いほど伝わってきた。

これ、重い一言ですよね。トップレベルの外交だけではなくて、すべてのグローバルな交流において、大事なメッセージのように思います。

僕らが今2008年を目指して、企画している慶應義塾150周年記念のグローバルコンテスト。そういえば、3月にノルウェイトロンハイムで開催されたMIT 100K Global Startup Workshopで私がこの企画をプレゼンしたときに、アフリカ人の人から、「なんでコンテストなんだ。競争ではなく、協調が大事なのではないか。」という指摘を受けたことを思い出しました。

慶應義塾が先導すべき、日本ではじめてのグローバルコンテストのコンセプト作りに役立ちそうな一言でした。

ビジネスプランの価値 (つまり将来的なキャッシュフローの大きさや実現可能性)で競うのではなく、例えば世界中の各チームがどれだけ連携できたか、協調できたか、ということを競うコンテストが実現できたら素敵だな、と思います。でも、どうやったら仕組みに落とせるだろう。。。