Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

Acceptance Speech for the Teaching Award

3月のWBS学位授与式において、Teaching Awardをいただきました。それに伴って、修了生の皆様へのお祝いのスピーチをさせていただく機会をいただきました。WBSに異動して1年半で、修了する皆さまにメッセージを伝える機会をいただけるなんて、本当に幸せなことでした。

 

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Acceptance Speech for the Teaching Award

牧 兼充
2019.3.25

 

 まず最初に、今日晴れてMBAを取得した皆さん、おめでとうございます。そしてその中でも、今日家族の方がいらしている方もいらっしゃると思いますが、ご家庭を持ちながら、WBSでの生活を送った皆さん、特におめでとうございます。家族を持ちながらMBAを取るのは本当に大変なことだったと思います。
 
 今回は私の授業、「科学技術とアントレプレナーシップ」がティーチング・アワードを受賞したということなんですが、皆さんにお聞きしたいのは、本当にこの授業がティーチング・アワードで良いんですか?ということです。どう考えてもMBAっぽくない授業です。
 
 この授業はWBSの数ある授業の中でも、最も負荷の高い授業です。授業の負荷が高いことで有名なあの根来先生が、「この授業は自分の授業よりも負荷が高い」とおっしゃった授業です。そもそも、こんな授業がビジネススクールで、ましてや働きながらの夜間主の授業として成り立つとは、実は思ってもみませんでした。だから、今回のアワードのお話をいただいて、WBSにおいてはこういう授業が存在しても良いんだ、ということを実感することができて、とても嬉しいです。今日は、この授業で目指したことを少しお話ししたいと思います。
 
 この授業を設計するにあたっては、そもそもMBAというのは何をcertifyしているんだろう、ということを考えました。MBAはビジネスのプロフェッショナルを養成すると言っても、たかだか1、2年のプログラムを受けたからといって、簡単にプロになれる訳ではないと思うのです。皆さんが今日得たMBAというdegreeは恐らく「免許」ではなく、これからご活躍いただくための「仮免許」だと思うんです。もし皆さんが得るのが「仮免許」だとすると、授業で何を提供することが大事なのか、ということを考えました。

 WBSにいらしている学生の皆さんは、既にキャリア的に活躍している方々です。そういった方々が今後キャリアの後半を歩んでいくにあたっては、ビジネススクールで学んだことでは間違いなく不十分で、これからの人生でも引き続き学び続けなくてはいけない。その時に大切なのは、「自分は何を学んだか」よりも「自分は何を学べなかったのか」ということを強く認識してもらうことだと思いました。

 だからこの授業では、毎週6本のアカデミックな英語の定量研究論文をカバーしました。この授業で取り上げたのは、世界でもっとも頭の良い人たちが生み出した、この研究分野における、世界最先端の「知」が詰まっているといっても過言ではありません。そしてこの授業では私が分かりやすく教えるのではなく、皆さんに自分で読み込む力をつけてもらうことを目指しました。英語、統計の知識、科学的思考法、高度な理論、どれをとっても相当にチャレンジングだったと思います。

 授業のゴールが「プールの向こう側に泳いで行くこと」だとすれば、この授業で皆さんが体験するのは、「濁流に流されて溺れながら向こう側にたどり着いた」というような感覚だったのではないでしょうか。でも、この経験をした皆さんは、今日授与されたMBAが「仮免許」であることの意味を誰よりも理解していると思いますし、そしてこれから自分は何を学んでいかないといけないか、その地図が自分の頭の中に描けているのではないかと思います。

 この授業がとても良い学びになったとすれば、それは教員の力以上に、履修して下さった学生の皆さんの努力・コミットメントのおかげです。もしよろしければ、この授業を履修した皆さん、関田さん、林田さん、冨田さん、草地さん、安江さん、松田さん、成田さん、高山さん、そして授業をTAとして支えてくださった田巻さん、ぜひ立ち上がってください。
 このメンバーで、論文に書いてある理論から、それを皆さんの実務にどう役立てていくか、ということを毎週のように議論したことは、とてもとてもexcitingでした。この授業ほど、WBSが標榜するactionable management knowledgeとは何かを考えさせられる授業はなかったのではないかと思います。
 この授業のクオリティを高めることができたのは私以上に、この履修者のお陰です。とても有意義でこれからも続いていくラーニング・コミュニティが構築できたと思います。このアワードは私だけではなく、この履修者の皆さんと一緒に受賞させていただいたものだと思っています。履修者の皆さんへの拍手を持って私のacceptance speechとさせていただきたいと思います。履修者の皆さん、ありがとうございました。

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