京都と文学作品
京都をより知るにあたって、関係する文学作品を読むとより知識が深まるということで、色々考えています。
僕が高校時代に授業で習った作品で、京都が舞台で思い出すのは以下の2冊。
もう少し広げていきたいと思い、高校の国語の先生に、お勧めの本をお聞きしました。以下、備忘録を兼ねて。少しづつこういった作品もいつか読めたらと思います。
それにしても、高校の先生の教養の深さや、こういったことを考える視点、説明のうまさなどは、本当にすごいと思います。とても敵わないなといつも思います。
これからの日本の高校が果たすべき役割
先日、母校である慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部の新カリキュラム委員会という教員がこれからの学校のカリキュラムを考える会議に呼んでいただいて、最近考えていることをお話させていただきました。
そのときにお話させていただいたり、議論させていただいたり、その後メールでもお伝えさせていただいりしたことの一部をまとめてみたいと思います。以下の点は、学校で議論されている内容ではなく、卒業生として私が個人的に考えたことをまとめたものです。内容的にも、どの高校にも通じる普遍的な内容だと思います。
私は今は大学院教育、しかも実務家教育にしか携わっていないので、「すぐ役立つことを教えて欲しい」というプレッシャーがとても強いです。そのような状況の中で、高校の教育を考えてみることは、自分自身が大学院で何を教えないといけないか、ということを改めて考える良い機会でもあります。
多分、これからの日本の高校(慶應みたいな学校も含めて)が考えてないといけない課題の大前提は以下のこと。
これからの日本社会を考えると、子供が親と同等程度の所得水準を維持することはだんだん難しくなっている。おそらく、今と同じ教育をしていると、今の生徒の半分くらいは親と同等程度の所得水準を得ることはできなくなる。
学校教育の目的は、「未来社会への貢献」など色々あるけれども、根幹は生徒が経済的に豊かになるために必要な力を身につけること。今まで、日本の高校は特に努力しなくても、親より豊かな所得を得ることができる社会構造だったけど、これからはそんなに甘くない。おそらく、高校によって、何割の卒業生が親と同程度の所得水準を得られるかは、大きく差が開いていくはず。そこを分けるのはカリキュラムのあり方だし、卒業後も相互に刺激を与え続けるピア(peer)の存在。
特にデータに基づいたエビデンスはないのだけれども、感覚論としてこの危機感を持つことは大切なのかなと思います。生徒の満足度とか、大学にいって活躍できる人材育成とか、保護者が納得するとか、他にも色々な要素はあると思うけれども、根幹はここ。
今の生徒たちは、今存在していない職業についていきます。今存在する職業の一部は確実になくなります。今必要と言われているスキルの一部は未来においては必要ではなくなります。
以下のビデオクリップは、アメリカの初等・中等教育に携わる教員が参考にしているもの。日本の高校の先生たちにももっと普及して欲しいと思います。ここで前提としている社会で、これからの生徒たちは生きていかなくてはならない、ということを考えるにあたって有益だと思います。
こういった社会環境を前提としながら、高校の役割を考えていく上では、以下の点が重要だと考えられます。
- バランスがとれていることよりも、特定の分野で尖っていること。世界の競争はとても激しいので、バランスをとろうとしていたら競争で勝てるようなことは身につきません。尖っていて目立っていなければチャンスはまわってきません。
- 世界の変化は常に激しいので、明日は今まで培ってきたことを全て失う、ということが往々にしてありえます。この変化への対応する力を「リジリエンス」と呼びますが、メンタリティとしてこの感覚を理解することは必須だと思います。
- 世界における多様な課題を解決していくためには、実際にその課題を感じる人の気持ちを理解することが大切です。例えば、発展途上国の子供が困っていることを自分のことのように感じることができるか。このように自分が経験していないことでも共感を持つ能力を「エンパシー」と呼びますが、必要な力だと思います。この力は、世界の課題を発見する力になりますし、解決するためのネットワークを築くためにも重要です。
- 世界の人たちと人的ネットワークを築くためには、相手が誇りとしていることを理解しなくてはなりません。その誇りとしていることは往々にして、相手が育ってきた社会や・歴史に紐付いています。その背景を理解するためには、「教養(リベラルアーツ)」が必須で、なければ世界のリーダーとの良い人間関係は築けません。
- 必要なのはいわゆる「理系」の知識。「理系」に進まなくても、今起きている社会現象を理解するためにはサイエンスの知識が必須。
- 「キャリア」とは、「自分のやりたいこと」「自分の能力のあること」「マーケットのあること」の3つを満たさなくては実現できません。「強み」を評価するのは本人や教員や親ではなく、「マーケット」です。
- キャリアを歩めば歩むほど、自分の持っているネットワークのダイバーシティが重要になります。小中高大学も一つの国で過ごすのではなく、複数の国で過ごすことで、そのネットワークのダイバーシティをあげることができます。(その意味では、慶應義塾の一貫教育はむしろハンディキャップとなる時代になっているかもしれません)
- 生徒に多様な価値観を伝えるためには純血主義は課題となりうる。学校の教員の出身高校・出身大学の偏りは、生徒へ伝えられるものの幅を狭めてしまうかもしれません。
- 学歴は自分の能力を短い時間で示すためのシグナリング。残念ながら日本の大学は、グローバルな社会では東京大学以外はあまりシグナリングになりません。
- 世界の大学に目を向けると、"Future-Ready"な人材を育成するために、色々なカリキュラムや仕組みを組んでいるところが沢山あります。生徒が本当に自分に向いた大学を選べる手伝いをすることは高校の大事な役割です。
ちなみに、高校の教員が、カリキュラムを考えるにあたって、参考になりそうな本を以下の通り、リストアップしてみました。
世界級キャリアのつくり方―20代、30代からの“国際派"プロフェッショナルのすすめ
- 作者: 黒川清,石倉洋子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2006/05/01
- メディア: 単行本
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宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由
- 作者: 小野雅裕
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2014/04/25
- メディア: 単行本
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UC San Diegoのエコシステムを理解するためにおすすめの本
「大学トップマネジメント研修」のサンディエゴプログラムの運営をお手伝いさせていただいていることもあり、UC San Diegoのエコシステムを学ぶためにはどんな文献が良いかを聞かれることがあります。ということで、以下おすすめの本をご紹介します。
プログラムのorganizeをしてくれているDr. Mary Walshok の著作。サンディエゴの歴史がとても良く分かります。
- 作者: Mary Lindenstein Walshok,Abraham J. Shragge
- 出版社/メーカー: Stanford Business Books
- 発売日: 2013/12/02
- メディア: Kindle版
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私の 共同研究者でもあり、この分野の第一人者であるProf. Martin Kenneyの著作。UC San Diegoのことが2章分取り上げられています。
Roots & Wingsビデオ集
シンガポール国立大学では、Roots & Wingsという、大学1年生向けの21世紀に生きていくために必要なスキル学ぶためのワークショップがあります。以下のようなトピックを扱うとのこと。
- Our world is becoming increasingly complex and fast changing. Some call it the VUCA (Volatile, Uncertain, Complex and Ambiguous) world, and we need to learn new skills to thrive in it.
- How many times in your life have you heard “Pay attention!’, but have you ever been taught focus training skills?
- “Self-awareness” - what does that really mean?
- We all know communication is important but it’s more than talking in a loud voice. How do we really connect with others?
- We hear a lot about “Discovering Our Passion” but where and how do we even start when there are so many choices out there?
このワークショップでどんなことを教えているか知りたいとリクエストしたところ、このうちの数回分がビデオで公開されてるとのこと。以下にご紹介します。
Roots & Wings Trailer (Long version with student interviews)
Roots & Wings Trailer (Long version with student interviews)
NUS Roots & Wings - Employer's Video
NUS Roots & Wings - Employer's Video
Roots & Wings Seminar 2 - Focus & Attention
Roots & Wings Seminar 2 - Focus & Attention
Roots & Wings Seminar 5 – Happiness
アクセラレーターはベンチャーの成長にとって有効なのか?
この夏に卒業予定の米国の博士学生がまとめた「アクセラレータのベンチャーへのインパクト」をまとめた論文をご紹介します。
How Do Accelerators Impact the Performance of High-Technology Ventures? by Sandy Yu :: SSRN
アクセラレータに参加するベンチャー企業は、同程度のクオリティのアクセラレータに参加しなかったベンチャー企業に比較して、ベンチャーキャピタルから得る資金が少額で、より早く廃業する傾向にある。
メカニズムとしては、以下の二つの理由によるもの。
- アクセラレータに参加するベンチャー企業というのは、どちらかというと経験が不足しているベンチャーである。
- アクセラレーターへのフィードバックは、可能性のない事業プランをより早い段階で明確にするので、廃業の意思決定が早くなるし、無駄な投資もいらない。
アクセラレーターは失敗を加速する機能を持っているとすると、人材の流動性が高まるし、ベンチャーキャピタルからすると出資の効率性が高まるし、とっても大事な役割を果たしているし、アクセラレーターが直接的に、成功確率を高めてる訳ではない、というところがとても面白い視点だと思います。
この論文、アクセラレーターの本質をとっても良く分析していると思います。研究手法としては、荒削りなところもあるのだけれども、とっても面白い現象をとても面白い切り口でまとめていると思います。今年の米国のjob marketの中で、一番話題になってそうな感じがします。要は研究者新卒マーケットで話題になるってことは、その年の米国のこの分野の新卒の中でもっとも優れた若手研究者、みたいなイメージだと思います。
ベンチャーとかを研究していると、こういう切り口とデータセットの集め方が大事だな、って改めて思います。海外留学しようとしてる人は、博士卒業までにどんな研究がまとまっていないといけないかというイメージをつかむ意味でもとても良いと思う。
シンガポール国立大学から学んだこと
はじめに
1月中旬にシンガポール国立大学の研修に参加させていただきました。今回のシンガポール滞在、とても有意義でした。大学トップマネジメント研修@シンガポール国立大学(NUS)から学んだことが沢山あります。どうして、NUSがグローバルランキングで、東大を抜いてアジアで首位になったかが良く分かります。
もちろん片側ではシンガポール政府からの潤沢な資金がNUSに投入されていることは確か。日本の大学ができたらいいな、と思っていることをNUSが実現できているのは、政府からの資金援助があるからであることは間違いありません。
でももう一方で、資金以外にも、NUSがグローバルな環境の中で、厳しい競争に自らを追い込んでいることも確かです。僕は最近大学のマネジメントに最も大事なことを一つだけ上げろと言われたら、それは"resilience"だと思っています。つまり激変する外部環境に中で大学が、痛みがある中でもしなやかに新しい環境に適応していくというメカニズムです。大学という組織は硬直性があったらその時点で、大学の役割を果たせなくなります。だって、これだけ社会環境の変化が激しい中で、大学が社会の変化より遅かったら、未来に役立つ人材の育成なんてできないから。
"Resilience"が成り立つための仕組み
その"resilience"が成り立つための仕組み、今回学長やプロボスト、その他色々な分野の副学長と直接話す機会の中でヒントを沢山いただきました。
資金以外で大学において大事だと思ったことは、以下の通り。
- 大学の教員採用は世界でトップレベルの人材を採用する。現状NUSはNUSで博士を取得した教員が採用されることはほぼないそうです。NUSのらキングがどんどん上がっていくので、世界から優秀な人材が応募してくる。そうすると、NUSが博士をとった人ではその応募者の競争では勝ち残れないそうです。現在、教員の9割くらいが、米国か欧州(特にイギリス)で博士を取得した人だそうです。確かに、その大学の出身者が多く採用される大学というのは逆にいうと、その大学より reputationの高い大学の出身者が応募するほどの魅力がないということなんだと思います。その大学の出身者の比率の高い大学にはおそらく未来がないのだろうと思います。きちんとグローバルな厳しい競争の輪にその大学が参加できてるかどうかは、resilienceの前提条件だと思います。
- 教員が定年で退任したら、その教員の枠は学部ではなく、学長& Provost預かりになるそうです。その学部は、どんな教員を雇うかという明確なプランを示さなければ、学長 & provostはその枠を取り上げて、違うもっと重要な学部に割り当てるそうです。こうすることによって、重要な学部に人材が集まるようになる。また既存学部は次の時代に必要な人材は何かを考えてリクルートするようになる。ちなみに20年くらいで全体の3分の1をリプレースすることができて、その運用は学部ではなく学長とprovostがリーダーシップを持つことができる。日本の一部の大学のように、退任した人と同じ分野の人を採用するという仕組みでは、当然時代にあった学部への変革はできません。これもreslienceにおいてとても重要。
- 学部の教員構成で、若い人の比率が重要とのことです。NUSもそこまで実現できてないけれども、理想は50%くらいを、tenure-trackのAssitant Professorにすることだそうです。Tenureを持っている教員やシニアな教員は常に保守的になる。そういう人は、外部環境に対応することはできないことが多く、それができるのは若手だけ。日本の大学の年齢構成は、どんどん高年齢化していく一方です。社会に役立つ大学は、若手教員が半数いること。これはその通りと思いました。
- 教育は大学の根幹。授業がちゃんとできない教員にプレッシャーをかけることが大事だそうです。毎年の学生の授業評価で、全体の下位5%(最近は10%にあげようとしてる)は、ブラックリスト化して、副学長レベルで常に監視しながら、改善を求めていくそうです。tenureとった後も、このようなプレッシャーがあるかないかはとても大切です。
と、今回学んだことの一部をまとめてみました。予算に頼るばかりではなくて、大学としてこのような制度を導入することができて、初めて社会から信頼される大学になるのではないか、と思います。でも現実的には、なかなか日本の風土には合わないものも多い気がします。
大学生の留学のインパクト
先日NUSで聞いて面白かったものの一つは、大学生が留学した場合に、その後どんな効果があるかを定量的に分析したものです。内生性 (Endogeneity) はpronpensity score matchingで対応しようとしています。
ざっくりいうと、NUSの留学プログラムで1年留学すると、就職後の月収が平均で$190上がるという結果でした。留学先は、米国、中国、英国の順でより効果がでかいとのこと。所属学部を見ると、ビジネス、社会科学、自然科学の順番で効果が大きいそうです。
なお、新しい仕事を見つける時間が短縮するなどの効果はないそうです。またGPAの向上も見られるもののインパクトはとても小さいとのこと。
日本でこういう分析をやろうとしても、日本の大企業に就職すると初任給はそんなに差がでないので有意な差はでないような気がします。日本の学生は、海外留学するとより就活の時間が短くなったり、成績があがったり、という効果はあるのでしょうか。やっぱり他の学生と違う経験をした学生がより良いキャリアを歩めるような人材マーケットはとても大切だと思っています。
こんな風に教育プログラムを評価していくことは日本においてもとても大事だと思います。
Centre for Future-Ready Graduates
NUSには、Centre for Future-Ready Graduatesというセンターがあるそうです。これは他の大学でいうところの、キャリアセンターを改組したものだとのこと。
キャリアセンターというと、卒業前になって、学生が就活するときに相談する場所。でも本当に大事なのは、大学1年生で入学したときに、キャリアのことや、今の21世紀型の労働市場において、大学でどんなことを学ぶべきかを考えること。というわけで、大学1年生からスタートするキャリア支援をやっているそうです。
特に去年くらいからは、全1年生必修の"Roots and Wings"というワークショップを単位つきでやっているそうです。
このワークショップで、以下の4つの力を養っていくとのこと。
Aims of the Programme - 4 Main Outcomes
- Focus - Reduce distractibility, manage stress, lengthen attention span
- Self Awareness - Of personality traits, strengths & challenges
- Interpersonal Awareness & Effectiveness - Collaboration, conflict resolution & empathic conversations
- Personal Vision - Define & articulate goals and vision statement
このプログラムを通じて、自分に自信を持ったり、ストレスへの対応法を学んだり、ResilienceやEmpathyなどの今の時代に必要な能力を養っていくとのこと。
このワークショップの教材もシェアしてもらうようにお願いしてきましたが、かなり良くできているプログラムだと思います。
日本の大学でもぜひこういう力を養っていける場が欲しい。僕が昔慶應の頃にアントレプレナーシップの教育で教えたいことをもう少し一般化するとこういうプログラムになるんだろうと思います。