Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

2019年を振り返って

後数時間で2019年も終わろうとしています。この1年間は色々な意味でWBSでの活動の基盤を固めた1年だったかなと思います。この1年間で特に大きな出来事を10点にまとめて、振り返ってみたいと思います。改めてお世話になった皆様に御礼申し上げます。

 
1) 初の修士論文、修了生、学位授与式
 
WBSに移籍して最初の修了生を3月に送り出すことができました。夜間主総合のゼミでは、社会人経験豊富な方々の修士論文をどのようにお手伝いできるのだろうか、と悩みながらも、無事終えることができました。全日制グローバルのゼミは初の修了生が3人。Rameshが修了式でERS Awardを受賞したのも、とても良い思い出でした。
個人的には、昨年春学期の「科学技術とアントレプレナーシップ」でTeaching Awardを
いただいたので、3月の学位授与式で表彰状授与とAcceptance Speeachをさせていただきました。
常に新しいことにチャレンジしているので、色々な方にご迷惑をおかけしてばかりですが、WBSでの基盤の立ち上げもjump startで、楽しくやらせていただいているなと思っています。
 

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2) より充実した授業の拡充
 
個人的な実感としても自分の授業を担当する能力はWBSに移ってからの2年間で飛躍的に上がっていることを実感しています。
1月には、ボストンで開催されたハーバード・ビジネス・スクール主催のCase Writing Workshopに参加しました。ケース教材をどのように作るか、作ったケースをどのように教えるかなどを学びました。昨年の7月のワークショップと合わせた2回でかなりの金額なのですがWBSがfaculty developmentの一環として費用を負担してくれています。
たくさんのことを学ばせていただきましたし、少しでも良い授業をやりたいと思う機会でした。
昨年の「科学技術とアントレプレナーシップ」の授業でTeaching Awardをいただきましたが、自分がもっとも多い入れがあるのは秋学期の「技術・オペレーションのマネジメント」です。というわけで、この秋は今まで以上に、力を入れてこの授業に臨みました。
授業の中では色々と新しい試みもあったので、うまくいったものもうまくいかなかったものもあったのですが、最終回の授業では学生の皆さんがスタンディング・オベーションをしてくれました。実は人生で授業の最後にスタンディング・オベーションをしてもらったのは2回目だったのですが、前回はアメリカで初めて授業で持った時で学生の皆さんからも「敢闘賞」という感じでした。今回は自分が教員のプロとして全力を出して、履修者の皆さんに認めてもらえた、ということでとてもとても嬉しかったです。
今回の授業は、履修者と教員の間でラポールが生まれて、理想的なラーニング・コミュニティが生まれたと思います。このコミュニティはこれからも続いていきそうな予感。もうこれ以上の授業を今後できるかどうか自信がないところもあるのだけれども、引き続き頑張っていこうと思います。
ところで、やっぱりゼミ配属の時期に授業をやらないといけないのは、色々な意味で授業で本来守りたいと思う理想が歪められるので本当に辛い。今後授業のタイミングを変えるなど、色々な工夫を考えていきたいと思っています。
 

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3) 科学的実験とデザイン思考
 
ちなみに今年はひょんなことから、担当する授業が増えました。「社会科学研究法」という授業を担当したのですが、これはとても良い経験でした。WBS全体の修士論文のあり方を考える上で良いきっかけでした。個人的には、授業のクオリティを担保するために、授業をあまり増やさないようにしている(相当にリバレッジをかけられる時のみ増やすことにしています)ので、この授業は今年だけですが。WBS修士論文全体のあり方、その中でどんな仕組みが作れるかは、引き続き色々と工夫しようと思っています。
 
この授業を受け持つことで、「科学的実験」をビジネススクールの教育・研究のコンテクストに持ってくるためのプロトタイピングができたと思っています。どんな授業をやるべきか、どんな形で国際連携するかなどを含めて。UC San DiegoのProf. Eric Floydに中継で授業をやってもらい最終課題としては実験のデザインのコンテストをやりました。そこから実際に共同研究になるかもしれない案件が生まれています。
 
もう一つが、デザイン思考の修士論文での活用。工学院大学の見崎さんにいらしていただいてワークショップを行いました。その議論の中から生まれたのが、「デザイン思考を活用した研究法のワークシート」です。このワークシート、もっと活かしていけそうな気がしています。
 
 
4) ゼミの基盤作りと拡充
 
WBSゼミはおかげさまで、少しづつ基盤が整いつつあると思います。夜間主総合ゼミも全日制グローバルも、それなりの人数の方が希望して下さるようになっています。まだまだ足りないこと、課題などもあるけれども、新しいゼミの立ち上げにコミットしてくれるゼミ生がそれなりにいるおかげで、ゼミの立ち上げがスムーズにいっているのだと思います。ご協力下さっているゼミの皆さんに感謝。
 
夜間主総合のゼミはかなり回るようになってきて、一方全日制グローバルは、日本語と英語の並存で運営していかないといけないので、もう少し工夫がいると思っています。また夜間主総合と全日制グローバルのゼミがどのように連携して相乗効果を生み出していくかも、これからの課題です。
 
スタディツアーも、今年は夜間主総合ゼミとしてはサンディエゴと深センにいきました。全日ゼミとしては長内さんにお世話になって大分へ。
 
ゼミ配属のプロセスも大きな課題と思っています。今年は全日制グローバルも夜間主総合ゼミも相当数の学生がゼミ面談にきます。例えば夜間主総合ゼミは6人定員ですが面談は41人しています。ゼミ配属のプロセスでかかるコストがどんどん大きくなっているので、この問題を解決する方法を考えていかないといけないと思っています。
 
ゼミでは実験的に新しいことを常に試しているので、軌道修正が必要になって、色々な調整事項が発生することも多々あります。でも、多分そういう軌道修正することで色々試してみることを楽しいと思う人たちが集まったゼミなんだと思っています。
 

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5) スター・サイエンティストとしての冨田勝氏
 
JST-RISTEX科学技術政策のための科学「スター・サイエンティストと日本のイノベーション」のプロジェクトは引き続き、順調に進んでいます。そんな中で、スター・サイエンティストの一人として同定されたのは旧知の冨田勝さん。鶴岡を基盤にベンチャー企業の創業にも多数関わっていらっしゃっています。ということで、プロジェクトとしてケース教材を作らせていただきました。9月には鶴岡に取材させていただいて久々にゆっくり飲みをご一緒させていただき、11月には授業のゲストスピーカーとしてもいらしていただきました。授業がとても盛り上がって来年3月にはみんなで鶴岡ツアーをご一緒することに。間違いなく今年のエポックメイキングの一つは、「サイエンティスト冨田勝」というケースを完成させたことでした。ご尽力下さった佐々木さん、石井さんに感謝しています。
 
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6) 首相官邸有識者海外派遣事業
 
ひょんなことから1月くらいに突然内閣府から「首相官邸有識者海外派遣事業」で、米国西海岸に行かないか、とお声がけいただきました。3月に開催されるスタンフォード大学シリコンバレーと日本に関係するワークショップのスピーカーを日本から派遣したいとのこと。内容を聞いてみると、以前にお世話になっていたスタンフォード大学APARCの主催のイベントということもあり、首相官邸が色々なアポイントをとってくれて、現地の人とも交流できるとのことで、参加させていただくことにしました。せっかくいくので、ベイエリアだけではなく、サンディエゴも訪問したいとリクエストを出して、2地点でかなりたくさんの方と交流させていただきました。
振り返ってみると、もう少しお役に立てることができたんじゃないかという反省もあるのですが、次に活かしていきたいと思います。
 
 
7) WBS新設授業の立ち上げ
 
WBSにいる期間がある程度長くなってくると、どんなニーズがありそうかが分かってきます。そんな中で今年は2月の集中講義の時期に合わせて、高須正和さんとPhil Wikchamさんをお招きした授業の立ち上げに携わらせていただきました。二つの授業は僕も全出席して、僕自身も色々と学ばせていただく良い機会でした。どちらも好評で来年以降も続いていくことになりそうです。
 
 
8) サンディエゴ 研究ワークショップ
 
毎年夏は引き続き、サンディエゴで過ごしています。せっかくいくのだから、毎年新しいことをやろうということで、 今年の夏はサンディエゴに日米の研究者をお招きして研究ワークショップをやりました。ここから新しい研究プロジェクトなんかも生まれて、来年も継続してやることになりました。こういう日米の拠点があることはとても大切と思っています。
 
 
9) オープン・イノベーション戦略研究機構・科学技術と新事業創造リサーチ・ファクトリー始動
 
ひょんなことから私の研究分野がぴったりだということで、早稲田大学全体のオープン・イノベーション戦略研究機構の運営委員にお声がけいただきました。その運営に多少関わらせていただいているうちに、私が今やろうとしている研究プロジェクトそのものがこのスキームにはまるのではないかと思いご相談したところ、トントン拍子で話が進み、初の人社系のリサーチ・ファクトリーとして「科学技術と新事業創造リサーチ・
ファクトリー」を立ち上げることになりました。本格始動は来年の4月からですが、FCMなどのメンバーも決まり、現在準備中です。
 
 
10) Equity, Diversity, and Inclusion
 
私がこの1年間、特に後半の半年でもっともよく使ったのは"Equity, Diversity, and Inclusion"という言葉だったのではないかと思います。さも昔から使っているようでしたが、この言葉に出会ったのはこの夏のサンディエゴでした。長内さんが来年から「
企業人のためのダイバーシティ・マネジメント」という授業を立ち上げるために、サンディエゴで担当部署のインタビューしたいということで、訪問時にアレンジしました。その際に僕もこのコンセプトを学んだのですが、聞けば聞くほど、とても大事な考え方だと思いました。ということで授業のシラバスにも取り入れ、授業の中でも紹介し、今や私の行動規範の一つになっています。でもこれ、長内さんの真似をしただけなんです。本当は。
 

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[おまけ1: 電動キックボード]
 
今年、サンディエゴで電動キックボードに出会いました。レンタル式では我慢できなくなり、自分用に購入してしまいました。これがあることで、自分のモビリティが大きく変わり、結構エポックメーキングでした。
 

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[おまけ2: 出張で色々なところへ]
 
今年も色々なところに出張しました。
海外: ボストン、チェジュ、ソウル、深セン、サンディエゴ、サンフランシスコ、グラスゴー、サンディエゴ
国内: 福岡、大分、京都、広島、福岡、対馬
 

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