Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

ビジネススクールでとても難易度の高い授業を教えるにあたって、その裏にある思い

今学期の夜間主の「科学技術とアントレプレナーシップ」の授業、履修者のおかげで、本当にうまく回っていると思います。理想的なラーニング・コミュニティになりつつあると思う。

この授業、濁流に飲まれて溺れていくような授業にも関わらず、かなり多くの人が付いていっています。

というより、履修者のプレゼンのレベルが高すぎます。結構難しい英語での定量論文を扱っているのに、みんな素晴らしいプレゼンをしていく。これ、多分世界の大学の博士課程のコースワークの授業のレベルは全然達しているし、もしかしたら実務への応用の議論ができる分、さらにレベルが高いかも。事前準備で分からないことを参加者同士がお互いに相談できる仕組みがうまく機能しています。

 

でも、苦労している人もたくさんいると思うんです。そんな人に贈る言葉として、このブログのメッセージはとても素晴らしいと思う。

 

b.log456.com

 

 

MITに入学したけれども、その中で卒業できる人とできない人の差はどこにあるのか、という話。

 

彼が教えてくれたことのなかに、頭の回転が速くなければ理解できないことなどひとつもなかったということです。彼のことを知るにつけ分かったことは、彼の知性と実績のほとんどは、まさに勉強と鍛錬によってもたらされているということでした。そして、必要に応じて学んで訓練をした知性の道具や数学の道具を蓄積した結果として、彼の大きな道具箱があるのだと知りました。

MITを卒業するのに失敗する人というのは、入学して、いままでに経験したなによりも難しい問題に遭遇し、助けを求める方法も問題と格闘する方法も知らないために燃え尽きてしまうのです。うまくやる学生はそういう困難にぶつかったとき、自分の力不足と馬鹿さ加減に滅入る気持ちと闘い、山のふもとで小さな歩みを始めます。彼らは、プライドに傷がつくことは、山頂からの景色を眺めるためであれば取るに足らないということを知っているのです。彼らは、自分が力不足であると分かっているので助けを求めます。彼らは知性の欠如ではなく、やる気の欠如が問題だと考えます。

年をうんととってボケ始めるまでは、「頭がよく」なるチャンスはあるのです。括弧付きで言ってみたのは、「頭がよい」というのは単に、「とても多くの時間と汗を費やしたので、難なくやっているようにみえるまでになった」ということを言い換えているに過ぎないからです。

 

色々なことを考えさせられるメッセージです。

Storytellingのすすめ - "STE Relay Column: Narratives" をどのように"Narrative"を学ぶ場にできるか

 

2月にWBSで開講された授業"Venture Capital Formation"で、担当のProf. Phil Wickhamが、「シリコンバレーの通貨は、お金ではなく"narrative"なんだ」、と言っていました。お金自体は希少性はなく、むしろ大事なのは、個々人がどんな"narrative"を語れるかが大切。"narrative"とは、"storytelling"と近い意味で使われる用語で、いかに自分のやろうとしていることを相手がempathyを持つ形で語ることができるのか、というような能力です。これからの時代の必須能力の一つだと思うのです。

「科学技術とアントレプレナーシップ研究部会」では、"STE Relay Column"という関係者が毎週自分のやっている活動を紹介する連載を行ってきました。これを今回”STE Relay Column: Narratives"と名称を変えて、より"narrative"にフォーカスを当てて行きたいと思っています。

 

www.stentre.net

 

この連載、実は全ての原稿、私が直接事前に読ませていただいています。特定の原稿の修正を求める、というようなことは特にしていないのですが、原稿として、物語性をどのように出して、読者に伝わる文章をどのようにかけるか、どのような表現が良いかなど、なるべく筆者の方にサジェスチョンしたりすることも可能な時はするようにしています。もちろん、もともとストーリーがまとまっていて、修正なしなことも多いのですし、トピックにも左右されるのですが。

タイトルからスタートして、読者にどんなメッセージを伝えて、どんな行動変容を期待するのか。これ自体がユーザ・エクスペリエンスそのものです。

 

そう考えていくと、この"STE Relay Column: Narratives"を執筆いただく方が、このコラムを書くプロセスで、storytellingについて学べるようなプロセスを組み込みたい。ゼミや授業でも、色々なツールや場を通じて、storytelling、narrativeの能力を高めていくことができるような仕掛けを考えていきたいと思っています。

 

まずは、教材集めから。

以下のKhan Academyの"The Art of Storytelling"はPixarが作成したオンラインのチュートリアルで、もっとも定番中の定番のようです。昨年サンディエゴに行った際にGreg Horowitts氏からお勧めされました。

 

www.khanacademy.org

 

その他、ハーバード・ビジネス・レビューでも日本語の論文が用意されているようです。この辺り、ゼミの必須文献にしてみようかな。

  • ロバート・マッキー、「経営者は優れた語り手であれ - ストーリーテリングが人を動かす」、ダイアモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー、2004年4月
  • ティーブン・デニング、「人々の想像を刺激するストーリーテリングの力」、ダイアモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー、2004年10月
  • ピーター・グーバー、「ハリウッドの名プロデューサが教えるストーリーテリングの心得」、ダイアモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー、2008年3月

 

2018年度研究実績一覧

年度はじめで色々な報告書を書かないといけないこともあり、昨年度1年間の成果の棚卸しをしました。

JST-RISTEX「スター・サイエンティストと日本のイノベーション」に関連して、メンバーが学会発表などを積極的にしてくれているおかげで、発表などの実績は増えています。僕はどうしても全体のプロジェクト・マネジメントに負担が大きくなってしまっていて、もう少し研究の中身に時間をさけるようにしたいのですが。

ただ、肝心の査読付き論文が全く出せてない。。。今年度はもう少し自分の研究論文を書く時間をとっていかないといけないな、と思っております。

 

[招待論文]

  • 牧兼充、「日本はいまだに起業後進国なのか?―科学技術からの新事業創出の変遷―」、Nextcom 34、 2018年6月、pp.21-29

[学会発表(国際)]

  • Sumikura, K., Sugai, N., and Maki, KM., “The Involvement of San Diego-Based Star Scientists in Firm Activities”, 2018 IEEE International Conference on Engineering, Technology and Innovation (ICE/ITMC), June 2018
  • Nagane, H., Fukudome, Y. and Maki, KM., “An Analysis of Star Scientists in Japan”, 2018 IEEE International Conference on Engineering, Technology and Innovation (ICE/ITMC), Stuttgart, Germany, June 2018

[学会発表(国内)]

  • 長根(齋藤)、林元輝、牧兼充、「スター・サイエンティストの特許出願状況から見る産学連携」、日本知財学会第16回年次学術研究発表会、2018年12月1日
  • 井内音、隅蔵康一、牧兼充、福留祐太、長根(齋藤)裕美、「スター・サイエンティストに着目した日米の特許分析」、日本知財学会第16回年次学術研究発表会、2018年12月1日
  • 長根裕美・福留祐太・牧兼充、第32 回研究・イノベーション学会年次学術大会「日本のイノベーション政策とスター・サイエンティスト」、東京大学、2018年10月26日
  • 福嶋路・伊藤亜聖・田路則子・牧兼充、2019年度組織学会年次大会、「エコシステムの地殻変動とアジア・欧米のエコシステム」、2018年9月22日
  • 隅藏康一・菅井内音・福留祐太・牧兼充、「スター・サイエンティストの日米比較:東京大学とUCSDに着目して」、日本機械学会2018年次大会、関西大学、2018年9月10日

[招待研究セミナー]

  • “Innovation Policies and Star Scientists in Japan”, CEAFJP WORKSHOP “Who Changes the Status Quo? The Role of Star Scientists in Science Intensive Industry”, December 2018 (with Tetsuo Sasaki)
  • “Innovation Policies and Star Scientists in Japan”, Stanford-Tsinghua Asia-Pacific Innovation Conference – “Analyzing Public Policies for Entrepreneurship and Innovation in East Asia”, September 2018 (Presenter Tetsuo Sasaki)

[書籍など]

[ケース教材]

レガリアにかける想い

WBSの学位授与式において、僕は青色のレガリアを来て、参加しました。そしてDeanの淺羽さんも同じ色のレガリア。多くの人から「どうして浅羽さんとお揃いのデザインなんですか?」、「色間違えてないですか?」、「教員用はこの色なんですか?」、「アメリカの大学でもこの色なんですか?」、「浅羽さんと牧さんはどういう関係なんですか?」など、色々な質問をいただきました。

 

f:id:kanetaka:20190403183525j:plain


ガリアというのはもともと、中世のヨーロッパがオリジンの学者の正装のことをさします。学士、修士、博士それぞれデザインが分かれています。中世以降、博士取得者は、司祭や枢機卿のような明るい色のガウンを着る伝統が生まれました。このようなレガリアの文化はイギリスで発展し、その後アメリカの大学に引き継がれるようになりました。

アメリカでは、卒業式、学位授与式などの式典において、学者としての正装のレガリアを着ることが一般的です。そして、学士・修士・博士によってデザインが違うのと同時に、大学ごとにもデザインはバラバラです。

そして、学位授与式などで教員は、自分が所属している組織のデザインのレガリアを着るのではなくて、自分が博士を取得した大学のレガリアを着ることとなっています。ですから、色々な大学の出身者が集まる大学の教員の入場は、みんなバラバラな格好なので、さも仮装行列のようになります。そして、このみんながバラバラな格好ということは、それだけたくさんの大学の文化が融合している、ダイバーシティのあるコミュニティであることの象徴でもあります。もし教員がみんな同じ色のレガリアを来ていたら、その大学は人事がうまくいっていないと思った方が良いと思います。

なぜ、レガリアを着ることを大事にしているのか、それは大学が、世界最古のボローニャ大学の時代から、人類の知識を継承する役割を担って来ている、その知的交流の仲間に修了生をお迎えするのが、学位授与式の本来的な意味であるからです。

僕はWBSのような、ビジネススクールというプロフェッショナルスクールであるからこそ、学位授与式においては、アカデミアの価値を共有することはもっと強調されるべきだと思っています。それが、総合大学の中に根ざしているビジネススクールの本質的な強みだと思うから。

僕は、カリフォルニア大学サンディエゴ校で博士を取得した際にレガリアを購入しました。それはこれからも卒業式や学位授与式では着たいと思っていたから。

そして今回一人だけレガリアを着るととても浮いてしまうので、浅羽先生にお誘いして、浅羽先生にも母校のカリフォルニア大学ロサンゼルス校のレガリアを購入いただいて、一緒に着ましょう、ということになりました。ちなみに、カリフォルニア大学は10キャンパス合わせて一つの大学システムなので、レガリアのデザインも一緒です。

小さなこだわりかも知れないけれども、学位授与式で授与された修士号というのは、人類がボローニャ大学の時代から蓄積してきた、そして世界の学者が相互に繋がりなら発展させてきた知識を学んだことをcertifyするものだし、そのグローバルな知的コミュニティの仲間としてお迎えする、というものだったのだと思います。その思いを大切にしたいから、僕は会場で浮いていたとしても、レガリアを着ることを大切にしています。
別に仮装したいから(それもあるけど)、この格好をしているわけではないのです。

ということで、なぜ浅羽さんと二人でペアルックだったか、みなさま、ご納得いただけましたでしょうか。誤解解けましたか?

ぜひ修了生の皆さんに、世界の知的コミュニティの一員としてご活躍いただくためにも、アカデミアが大切にしている規範をご理解いただきたいと思いまして。

 

f:id:kanetaka:20190403183548j:plain

 

Acceptance Speech for the Teaching Award

3月のWBS学位授与式において、Teaching Awardをいただきました。それに伴って、修了生の皆様へのお祝いのスピーチをさせていただく機会をいただきました。WBSに異動して1年半で、修了する皆さまにメッセージを伝える機会をいただけるなんて、本当に幸せなことでした。

 

f:id:kanetaka:20190403181342j:plain


Acceptance Speech for the Teaching Award

牧 兼充
2019.3.25

 

 まず最初に、今日晴れてMBAを取得した皆さん、おめでとうございます。そしてその中でも、今日家族の方がいらしている方もいらっしゃると思いますが、ご家庭を持ちながら、WBSでの生活を送った皆さん、特におめでとうございます。家族を持ちながらMBAを取るのは本当に大変なことだったと思います。
 
 今回は私の授業、「科学技術とアントレプレナーシップ」がティーチング・アワードを受賞したということなんですが、皆さんにお聞きしたいのは、本当にこの授業がティーチング・アワードで良いんですか?ということです。どう考えてもMBAっぽくない授業です。
 
 この授業はWBSの数ある授業の中でも、最も負荷の高い授業です。授業の負荷が高いことで有名なあの根来先生が、「この授業は自分の授業よりも負荷が高い」とおっしゃった授業です。そもそも、こんな授業がビジネススクールで、ましてや働きながらの夜間主の授業として成り立つとは、実は思ってもみませんでした。だから、今回のアワードのお話をいただいて、WBSにおいてはこういう授業が存在しても良いんだ、ということを実感することができて、とても嬉しいです。今日は、この授業で目指したことを少しお話ししたいと思います。
 
 この授業を設計するにあたっては、そもそもMBAというのは何をcertifyしているんだろう、ということを考えました。MBAはビジネスのプロフェッショナルを養成すると言っても、たかだか1、2年のプログラムを受けたからといって、簡単にプロになれる訳ではないと思うのです。皆さんが今日得たMBAというdegreeは恐らく「免許」ではなく、これからご活躍いただくための「仮免許」だと思うんです。もし皆さんが得るのが「仮免許」だとすると、授業で何を提供することが大事なのか、ということを考えました。

 WBSにいらしている学生の皆さんは、既にキャリア的に活躍している方々です。そういった方々が今後キャリアの後半を歩んでいくにあたっては、ビジネススクールで学んだことでは間違いなく不十分で、これからの人生でも引き続き学び続けなくてはいけない。その時に大切なのは、「自分は何を学んだか」よりも「自分は何を学べなかったのか」ということを強く認識してもらうことだと思いました。

 だからこの授業では、毎週6本のアカデミックな英語の定量研究論文をカバーしました。この授業で取り上げたのは、世界でもっとも頭の良い人たちが生み出した、この研究分野における、世界最先端の「知」が詰まっているといっても過言ではありません。そしてこの授業では私が分かりやすく教えるのではなく、皆さんに自分で読み込む力をつけてもらうことを目指しました。英語、統計の知識、科学的思考法、高度な理論、どれをとっても相当にチャレンジングだったと思います。

 授業のゴールが「プールの向こう側に泳いで行くこと」だとすれば、この授業で皆さんが体験するのは、「濁流に流されて溺れながら向こう側にたどり着いた」というような感覚だったのではないでしょうか。でも、この経験をした皆さんは、今日授与されたMBAが「仮免許」であることの意味を誰よりも理解していると思いますし、そしてこれから自分は何を学んでいかないといけないか、その地図が自分の頭の中に描けているのではないかと思います。

 この授業がとても良い学びになったとすれば、それは教員の力以上に、履修して下さった学生の皆さんの努力・コミットメントのおかげです。もしよろしければ、この授業を履修した皆さん、関田さん、林田さん、冨田さん、草地さん、安江さん、松田さん、成田さん、高山さん、そして授業をTAとして支えてくださった田巻さん、ぜひ立ち上がってください。
 このメンバーで、論文に書いてある理論から、それを皆さんの実務にどう役立てていくか、ということを毎週のように議論したことは、とてもとてもexcitingでした。この授業ほど、WBSが標榜するactionable management knowledgeとは何かを考えさせられる授業はなかったのではないかと思います。
 この授業のクオリティを高めることができたのは私以上に、この履修者のお陰です。とても有意義でこれからも続いていくラーニング・コミュニティが構築できたと思います。このアワードは私だけではなく、この履修者の皆さんと一緒に受賞させていただいたものだと思っています。履修者の皆さんへの拍手を持って私のacceptance speechとさせていただきたいと思います。履修者の皆さん、ありがとうございました。

------

f:id:kanetaka:20190403181418j:plain

f:id:kanetaka:20190403181432j:plain

 

2019年度夜間主総合ゼミで輪読する本

2019年度の夜間主総合ゼミでは、春クオーターの間、以下の3冊を前半で輪読することにしました。春クオーターは土曜に「科学技術とアントレプレナーシップ」というとても重い授業があるので、ゼミの方の負担は少し軽めにしたいと思っているので。

この3冊読むと、ゼミで扱っているような分野の研究の領域が良く見えると思うので。次年度は行動経済学を含めた「実験」の要素を増やしてみようと思います。ビジネススクール において、「実験」をもっとはやらせて見たい。

今回の社会科学研究法で行う「シン・経営学研究法ワークショップシリーズ」では2冊目の「その問題、経済学で解決できます。」の著者ジョン・リストのもとで学んだEric Floyd氏にサンディエゴから中継で、実験についての授業をやってもらう予定です。

 

科学の経済学

科学の経済学

 
その問題、経済学で解決できます。

その問題、経済学で解決できます。

 
年収は「住むところ」で決まる  雇用とイノベーションの都市経済学

年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学