Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

過去に依存するのではなく、SIV Next Generationの設計を目指す


そろそろSIVの事務局長を退任して、半年が経とうとしています。この半年間は、博士の研究に専念しようということで、随分色々なことを考えたり、色々な本を読んだりしてきました。博士は1年での取得を目指していたものの案の定難航していて、まだまだ時間がかかりそうです。

前半は、今までのSIVの活動を整理して論文に結び付けたいということで、「同窓会ネットワーク」をテーマに研究を進めていました。SIVではインキュベーションに係る施策を色々と企画・実行してきましたが、その中でも最も特徴的だったのが、メンター三田会で、このメンター三田会こそがSIVの最大の特色と思っていたからです。

色々な社会ネットワーク理論の文献を調査したり、全国のインキュベーション組織への調査の分析をしたり、SIVのネットワーク分析をしたり、メンター組織へのヒアリングを行ったり、してきました。とりあえず論文を1本投稿して、現在更に2本執筆中です。

論文を実際にまとめてみた経験から、同窓会ネットワークは、ネットワークの閉鎖性と空隙性の転換が可能で、この特性がベンチャー支援に良い影響を与える、ということを博士論文の中核にできないか、と考えていました。

このストーリーを色々な方に相談してみたところ、面白いテーマだとは言ってもらえるものの、博士論文としては弱いというコメントを多数いただきました。そんな中で、國領先生から「一度、同窓会ネットワークというテーマから離れてみた方が良い。実際に携わってきたことをテーマにすると、思い入れが強くなりすぎて、客観的な研究にはならない。大学とイノベーション、というくらい大きなテーマに立ち戻って、新たな課題を探ってみると良い。」とアドバイスをいただきました。

その結果、現在着目しているのが、「ナショナル・イノベーション・システムにおける大学の役割と研究資金調達に関する研究」というテーマです。ナショナル・イノベーション・システムというのは、国・大学・企業がどのように役割分担し連携すると、国全体のイノベーションがシステムとして成り立つのか、という考え方です。大学の研究資金には、大きく分けて、国からの委託研究と民間との共同研究の二つがあります。この二つは、目的も使途も大きく異なり、研究者のインセンティブも変わってきます。この特性がイノベーションにどのような影響を与えるか。このことを論文の前半で追及していきたいと思います。そして、後半では現在萌芽的な事例として発生しつつある投資ファンドを活用した研究費の獲得手法を取り上げて、この第三の研究資金獲得手法は、国からの補助金や民間との共同研究では実現できなかったイノベーションが生まれる可能性があることを示唆したいと考えています。

國領先生と研究テーマを相談させていただいたときに、「牧さんと6年くらいつきあって、もともと牧さんがSIVで当初からやりたいといっていたのはこういうことだったんじゃないの?」とのコメントをいただきました。言われてみると、その通りだな、と感じました。


今までの自分の研究テーマ(=「同窓会ネットワーク」)は、言わばSIVという過去の活動をまとめようとしていました。でも、自分自身がSIVの達成点に満足している訳ではなく、まだまだ課題が多い。せっかく博士論文をまとめるのであれば、過去をまとめるのではなく、未来を造ることをしたい。そう考えると、SIV Next Generationを造ることのできる研究テーマなんだな、と思います。

せっかく今まで集めたデータがあるので、もうしばらくは「同窓会ネットワーク」や過去に集めたデータに基づいた論文を2,3本まとめる研究活動を継続しようと思います。でも、博士論文としては新しいものを生み出すことにフォーカスしようと思います。結果的に博士取得の時期は延びてしまいますが、良い決断なのではないか、と我ながら思っています。

SIVで構築してきた基盤の発展にはこれからも貢献していきたいと思います。でも、自分自身の研究テーマとしては、過去への依存から脱却して、新しい基盤作りにフォーカスしていきます。このモデルが形になれば、今までのSIVの基盤の発展にもつながるように思っています。