Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

NHK "What's on Japan"にスタジオコメンテーターとして出演しました


先日のブログにも書きましたが、ひょんなことから、NHK "What's on Japan"にスタジオコメンテータとして出演しました。

この番組のWebページは、http://www.nhk.or.jp/nhkworld/english/tv/whatsonjapan/index.htmlにあります。このWebページにて番組内容を以下のように取り上げています。

ACCESS: Alliances with Academia Bring Business Opportunities
Ties between Japanese universities and companies may not be as extensive as in some countries. But recent collaborations are showing the benefits of working together. The number of companies coming out of universities to promote new ventures has tripled over 10 years. The number of patent applications made by universities topped 10,000 in 2007. An exhibition of technologies developed by universities attracted more than 40,000 people over a 3-day period this month. Our report highlights the expectations and approaches of both business and academic institutions, including what's called the "coordinator system." Kanetaka Maki of Keio University also offers his perspective.


私は産学連携の専門家という立場から以下のようなコメントをしました。

Q1:日本で産・官・学の連携が増えている背景には、どのような背景があるのでしょうか?

まず、ナショナル・イノベーション・システムの変化があります。ナショナル・イノベーション・システムとは、国、大学、企業がどのように役割分担をして国全体でイノベーションを創出していくか、という考え方です。

1980年代までは、企業はイノベーションを大学に頼らず、企業内に中央研究所を作り、その研究所の中で開発された研究成果に基づいて事業化してきました。しかしながら、昨今のグローバル化による競争の激化、プロダクトの高度化などに伴い、企業は自社内での研究を活用するだけでは、競争優位を確保することが困難となりました。そこで、外部の研究成果を積極的に活用する「オープン・イノ
ベーション」という考え方が主流となりつつあります。大学は、企業にとって新たな研究成果を活用する知識の源泉として見直されるようになり、産学連携が注目されるようになりました。

それに伴って大学も、社会から産業への直接的な貢献を求められるようになりました。そのためには研究費が今まで以上に必要ですし、社会的なニーズを把握するためにも、産業界との交流の重要性が高まりました。このことが結果的に産学連携重視につながっています。

このナショナル・イノベーション・システムの変化において、政府は矢継ぎ早に政策を実施、この動きをうまく誘導してきた、と言えるでしょう。


Q2:日本の産・官・学連携の特徴は?

まず、日本の産学連携は、欧米に比べて遅れているということを良く言われますが、私は必ずしもそれは事実ではないように思います。

確かに共同研究契約や知的財産権の移転などの制度が整ったのは最近です。しかしながら、企業からの奨学寄付金を得て研究開発し、良い人材を企業に送り出す、もしくは教員が顧問として企業に携わるなどの活動は、アンオフィシャルには活発に行われてきました。その意味で、産学の交流は今までも少なくなかった、ということです。

さて、日本の産・官・学の特徴ということですが、着目すべき点は、中小企業の活躍です。近年、産学連携の共同研究の件数は大幅に増加している一方で、研究費の総額はそこまで増加していません。このことは1件あたりの研究費の額が少ないということです。中小企業が大学との産学連携を有効活用している、ということです。中小企業の競争力の向上は我が国の国際競争力においても極めて重要です。この動きに期待したいところです。


Q3:産・官・学のベンチャーを育てる課題は?

大学の知的財産権の中には、大企業にライセンスするよりも、ベンチャー企業を設立し、ビジネス開発を行った方が良いケースが多々あります。しかしながらベンチャー企業にはキャッシュがありません。その意味で、特許のライセンスの対価として大学が株式を取得するといった仕組みが有効ですが、現在は国公立の大学では、ベンチャーの株式を取得することが制度的にできません。その意味で、国公立の大学がベンチャーの株式の取得を認める方向になりつつある現在の動きは、ベンチャー育成を促進すると言えるでしょう。


Q4:さらに、国際競争力をつけるためにはどのような課題が?       

より多くの大企業の方に、ナショナル・イノベーション・システムとしての日本の国際競争力の向上のためには、積極的に日本の大学との共同研究を増やしていただき、未来を担う若手人材の育成に貢献していただく。この視点が極めて重要であろうと考えます。

なぜなら、日本の大企業から、研究費の提供を受けている、海外の大学では、教員は積極的に企業に研究費の営業をし、その研究費を自身の給料の一部や大学院生の給与に充てているからです。つまり、日本の大企業はそういった意味で、他の国国際競争力の向上に貢献しているのが現状だからです。

政府主導の政策も今後も引き続き必要です。産学連携や大学発ベンチャーという個別の制度は整いつつあるが、我が国のナショナル・イノベーション・システムの強化という観点からの政策・立案が今後ますます求められるようになります。

米国の大学では、イノベーションに携わるスタッフは、博士取得者や産業界での豊富な経験を持つ者が従事しています。一方で日本の大学ではまだまだ大学の職員のみのキャリアの延長線上と位置付けられています。大学の研究者と企業人のキャリアの分離しています。この意味での、イノベーションのための多様性が出あうための人材の流動化を政府主導で推進する必要があります。

グローバル性はまだまだ日本の大学には欠けています。イノベーション産業は、スタートした段階からグローバルな競争にさらされています。グローバルな視野を持ち、コミュニケーションやコラボレーション可能な人材の育成が急務です。

民間によるイノベーションの推進が何より大切ですが、その側面のサポーターとしての政府の役割も今後も引き続き重要です。


今回収録で初めて経験したことは以下の通りです。

  • コメンテーターとして事前に原稿を書いて出しておくこと。
  • 英語の番組ということで原稿は英語である必要があるけれども、日本語の原稿を出すとプロが翻訳してくれること。
  • スタジオで撮影するときは顔が光らないように、顔にお化粧をすること。
  • 撮影中はライトが強く汗をかくため、収録中も合間合間に適宜お化粧をすること。
  • 「プロンプター」というカメラにディスプレイがついた装置があり、そこに表示される原稿を読むことで、カメラ目線で話しているように見える仕組みになっていること。


高校生のころにNHK教育番組でスタジオ高校生をやっていましたが、今回はまた改めて良い経験になりました。