Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

企業者ネットワーキングの世界 -MITとボストン近辺の企業者コミュニティの探究


私がインキュベーションを研究対象として捉えるようになって、最も影響を受けた本はこの「企業者ネットワーキングの世界」でした。この本読んでから、すっかりネットワーク理論にはまりました。



最近は、随分この視点からは違う研究テーマにフォーカスしてますが、イノベーションを誘発する"Incentive Structure"の具体的な設計をする頃には、またネットワーク理論と絡んでくるような気がしています。

ちょっと分厚い本ですが、インキュベーション・システムの設計に携わる人は絶対に読んでおいた方が良い本です。4年くらい前にまとめたレジュメを、自分自身の備忘録のためも含めてupしておきます。

金井壽宏、『企業者ネットワーキングの世界―MITとボストン近辺の企業者コミュニティの探求』、白桃書房、1994年.


本書は、企業者のネットワーキング活動という実践的な課題に関するアカデミックな研究である。MITエンタープライズ・フォーラムとSBANEエグゼクティブ・ダイアローグ・プログラムについて理論化のための記述を行い、ネットワーキング組織には、フォーラム型とダイアローグ型という理念的構成概念を提示した。

この概念の違いを生む属性としては、(1)参入の条件(オープン・メンバーシップもしくは会員資格の欠如に対して限定的あるいは閉鎖的メンバーシップ)、(2)運営基盤と手続き、(3)連結あるいはつながり方の基盤、(4)便益のタイプ の4点が異なる。運営基盤の手続きとしては、高回転率と低回転率、低コミットメントと高コミットメント、散発的・非定期的な参加と恒常的・定期的な参加、連鎖効果を通じて広がる間接的相互接触の活用とフェース・ツー・フェースの直接的接触の重視などがある。連結基盤としては、弱連結と強連結、多様性・非連続性と共通基盤と連続性、ルース・カップリングとタイト・カップリングなどである。便益のタイプとしては、用具的と表出的がある。なお、この理念体系を示したものの現実的に完全に分離することは不可能であり、それぞれの事例についても相互に特性が混ざり合っている。

本書の構成と研究の方法論を以下に示す。

第2章では、この研究テーマにかかわる既存研究を再検討して、研究面での課題を探る。具体的には、企業者論、社会的ネットワーク論、交換理論、資源動員論、組織間関係論などを論じる。これらの先行研究レビューにより、ネットワーキングに関する微妙なパラドックスが明らかになり、これをレインボーパラドクスとしてまとめた。第3章では、リサーチ・クエスチョン及びその研究の方法論について論じる。複数の方法を併用するmethodological triangulation、の方法論、エスノグラフィックの方法論、理論的なサンプリングによる「現場発の理論」について述べる。

第4章、第5章では、2つのネットワーク組織のエスノグラフィーによる定性的記述を行う。それぞれの会の参加者自らのものの見方の記述を目的としており、現地人の視点に忠実なケース記述になるように配慮した。また比較ケース分析を通じて解明される理論的問題やパラドクスの解釈がケースの記述に混入しないように配慮した。

第6章では、前2章の記述の理論的会社を試み、第4章の内容をフォーラム型、第5章をダイアローグ型と定義した。それぞれのケースが示唆する理念について、理論的属性や次元について究明した。この章はネットワーキング組織のデザインのためのヒントが多数含まれている。第7章では、質問表調査によって二つの組織体から収集した、大規模で体系的なデータに基づいて、第6章で提示した理論的な類型論の現実妥当性を確認した。

第8章では、本書について、第二章で示したいくつかの理論的なパラドクスと照らしあわせて、実証研究からなにがわかるのか、なにが依然としてわかっていないのかの議論を行った。