Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

ネットワーク理論の古典的論文


私は何の研究者を目指すのか、というとそもそもは、majorがイノベーションで、minorがネットワーク理論と考えていたんで、一時期ネットワーク理論を結構勉強してました(今はminorはincentive structureになりつつあるのかな。まだやや不明瞭です)。

さて、ネットワーク理論の研究を理解するためには、コールマン・レントとバート・レントが最も重要な基盤となっています。オープン・イノベーションを促進するための研究においても、ネットワークの重要性が指摘され、この二つのネットワークの特性が良く取り上げられます。

ネットワーク理論を学ぶにあたっての一番の好著は以下の本です。ネットワーク理論に関する古典的な論文が全てまとまっています。


リーディングス ネットワーク論―家族・コミュニティ・社会関係資本

リーディングス ネットワーク論―家族・コミュニティ・社会関係資本


以下に以前に勉強会でまとめたコールマンとバートの論文のレジュメを掲載します。

ジェームズ・S・コールマン 「人的資本の形成における社会関係資本


社会関係資本には、「ダイヤモンド卸市場」、「学生活動家の活動基盤」、「住む場所による子どもたちの安全性」、「市場における異種承認間の連携」など多数の性質の異なる事例がある。それぞれの性質の違いは、社会関係資本には、「恩義と期待」、「情報チャネル」、「社会規範」の3つの形態があることから説明ができる。

「恩義と期待」とは、AがBのために何かを行い、Aは将来Bがそれに報いてくれると信頼しているとした場合、これによりAには期待が生まれ、Bには恩義が生まれる、というメカニズムである。このメカニズムは、恩義がいずれ報われるという社会的環境の信頼性と、追っている恩義の大きさを測る手法に依存している。

情報は行為をもたらす基盤となる点で重要であるが獲得コストがかかる。情報を獲得する手段の一つは、別の目的のために維持されている社会関係を利用することである。このメカニズムは、恩義と期待を発生させるが、提供する情報自体においてその関係には価値があるものであり、これを「情報チャネル」と呼ぶ。

効果的な規範が存在する場合、それは、強力で、しかしときに脆弱な形態の社会関係資本となる。集合体内における司令的な規範は、社会関係資本の非常に重要な形態であり、それによって人は自己利益的行動ではなく、集合体の利益のために行動することができて、人々を公共の利益のために働かせる。一方で、若者の「勝手きままな振る舞い」を制約する。これを「社会規範」と呼ぶ。
すべてのメカニズムは何らかの形態の社会関係資本を促進し、その関係から何らかの利益を得られる限りにおいて関係を維持する。

効果的な規範が依拠している社会関係のひとつが、ネットワークの閉鎖性である。一般的に、効果的な規範が発生する十分条件とは言えないが必要条件と言えるのは、他者に対して外的な効果を課すような行為である。オープンなネットワークでは、主体が相互に連結していないため他者の目を気にする必要はないが、クローズなネットワークでは、主体が相互に連結されているため、他者の目を気にする必要が発生する。

親子関係においても、子供Bとその親のA、子供Cとその親のDがいた場合、AとDが相互につながっていた方が、子供に対して効果的な教育が可能である。
具体的な事例として、高校1年生の中途退学に、社会関係資本の閉鎖性がどのように影響するかについて検証し、ネットワーク閉鎖性の効用に証明している。

ロナルド・S・バート 「社会関係資本をもたらすのは構造的隙間かネットワーク閉鎖性か」


社会関係資本を創り出すと論じられるメカニズムには、「ネットワーク閉鎖論」と「構造的隙間論」がある。ネットワーク閉鎖論の主張によれば、社会関係資本には、相互に強く結合した要素間のネットワークから創出される。構造的隙間論は、分離している部分間を唯一自分だけが仲介し、結合できるようなネットワークによって社会関係資本が創出される。

構造的隙間論は、グラノヴェターの弱い紐帯の強さ、フリーマンの媒介中心性、クックとエマーソンの排他的交換がもたらす利益、バートの複雑なネットワークにより創出される構造的自律性などのネットワーク諸概念に依拠しており、社会関係資本を、仲介者になる機会の機能としてとらえる考え方である。

構造的隙間は、冗長ではない複数の情報源の間を分断するかたちで存在しており、こうした複数の情報源は互いに重複していないので、それぞれ別の情報をもたらす可能性が高い。構造的隙間に富んだ接触相手のネットワークをもった人というのは、高い報酬を得られる機会をよく知っており、それに手が届きやすく、それをコントロールできる人である。起業の機会となる構造的隙間をたくさん含んだネットワークこそが起業家的ネットワークであり、起業家とは、構造的隙間に個人間ブリッジを架けることに長けた人々であると言える。

五つの異なる経営管理者たちを調査対象サンプルとした研究の結果に基づき、構造的隙間論の有効性を「業績評価」、「昇進」、「給与報酬」等の観点から論証している。
一方で、集団内に存在する個人間あるいは組織間の構造的隙間は、集団内のコミュニケーションや協力関係を低減し、そのような集団は外部の接触相手との関係をうまく仲介して利益を上げる能力を低下させてしまう。閉鎖性が増せば、チーム内における構造的隙間が消え去り、コミュニケーションを円滑にし、チームの協調性を高める。

ネットワーク閉鎖論と構造的隙間論の矛盾は、より一般的な社会関係資本のネットワーク・モデルのなかで解消可能である。構造的な隙間間を橋渡しして仲介することが付加価値を生み出す一方、閉鎖性も構造的隙間のなかに埋蔵されている価値を実現するために重要な役割を担う。