ソーシャルキャピタルをゲーム理論から説く
ソーシャルキャピタルの研究は、色々な学問体系からなされていますが、私が今まで読んだ本の中では、ゲーム理論から説いたこの本が一番しっくりきました。
つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで (Minerva21世紀ライブラリー)
- 作者: R.アクセルロッド,Robert Axelrod,松田裕之
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 1998/05
- メディア: 単行本
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概要をご紹介します。
アクセルロッド、『つきあい方の科学 -バクテリアから国際関係まで-』、ミネルヴァ書房、1998
他人とのつきあいを続けていくうえで、相手に協調すべきなのはどんな場合で、自分本位にふるまうべきときはいつだろうか。本書は、反復囚人のジレンマを用いて、ゲーム理論を取り入れた進化生物学の観点から解き明かす。
反復囚人のジレンマにおいて、どんな戦略が優れた戦略がすぐれた戦略かを見つけるために、コンピュータ・プログラムのコンテストを2回行ったところ、「しっぺ返し」が最も有効であった。成功につながる付き合い方は4つの特徴を持つ。
1. 相手が協調している限り、不要ないさかいは避けること
2. 相手がふいに裏切ってきたときには怒りを表す可能性を示すこと
3. 一度怒りを表したあとは、心を広くして長く遺恨をもたないこと
4. 相手が自分についていけるように、明快な行動をとることこれらは、中央の権力の手を借りなくても、条件さえ整えば協調関係がエゴイストの集団の中に現実に出現しうることを示す。
協調関係が進化するためには、各人がつきあいを続ける機会が十分にあり、今後の両者の利害関係に関心をもつことが必要であり、その場合以下のプロセスを踏む。
1. 最初は、まわりが無条件に裏切りを繰り返すただ中で、協調関係を始めなくてはいけない。もし協調派が裏切り派のなかでちりぢりになり、互いにつきあって助けあう機会がない場合には、協調関係の芽は育ちえない。しかし、たとえ協調派が少数でも、互いに内輪でつきあう機会に恵まれ、互恵主義にもとづいて協調しあうことができれば、協調関係は進化しうる。
2. やがて、互恵主義にもとづく戦略は、他の多くの戦略に競り勝って栄えることができる。
3. おしまいに、互恵主義にもとづく協調関係がひとたび足場を築いてしまうと、協調的ではない戦略の侵入を阻止できる。つまり、この社会進化の歯車には、逆行止めの爪がついているのである。この具体例として、第一次世界大戦の塹壕戦や生物行動に表れた協調行動について示している。
囚人のジレンマに直面した場合には、1)相手の成功を羨むな 2)自分から先に裏切ったりしてはいけない 3)相手の協調にも裏切りにも相応のお返しをせよ 4)策に溺れるなの4つの教訓が重要である。協調関係を出現しやすいようにかえるためには、1)当事者どうしのつきあいを今より長続きさせる 2)当事者がお互いのことをもっと気にかけるように諭す 3)互恵主義のありがたみを教える などの方法がある。協調関係で得られた知見を未開拓の分野に適用し、いろいろな社会構造の下でどのように協調関係が発達しうるかを示す。具体例として、政府がうまく統治するためには、政府自らが選択した何らかの価値観を、被支配者の大多数に承認してもらうことが重要であり、そのためには政府は、被支配者がおおむね従った方が得だと思えるような規則を定めることの重要性を示す。中央権力の介在なしにエゴイストが協調し始めるという議論を一歩進めて、人々が相手に思いやりをもつ場合にどうなるか、また中央権力があるときにどうなるかを考えた場合にも、基本となる考え方は変わらない。