ハイテク産業創出と地域内のスピルオーバー効果
引き続いて最近読んだ論文。サイエンス産業のイノベーションで著名なZucker女史の論文について、計量分析の手法と共にかなり深く読み込んでみました。
Zucker L. G., Darby M.R, and Brewer M. B., “Intellectual Human Capital and the Birth of US Biotechnology Enterprise”, The American Economic Review Vol. 88, No.1 (Mar. 1998)
バイオテクノロジー産業がいかに誕生したかを地域別かつ時系列に分析し、計量経済の手法を用いてモデル化した。
1975年には存在しなかった米国におけるバイオテクノロジー産業は、その後15年で700の会社が存在する産業へと成長した。この論文では、先進的な研究により創出される知的人的資本(intellectual human capital)と産業内における会社の設立の密接な関係を示した。
バイオテクノロジー産業において革新的な研究は、少なくとも10-15年の間、その成果を生み出した少人数のグループにより推進される。研究成果の普及は、研究開発者との共同研究(ベンチをシェアすることによる協業)により行われる。この協業は論文の共著論文により測定する。
説明変数としてスター科学者の数、共著者の数、地域内における優れた大学の数、連邦政府からの資金援助を受けている教員の数、地域内のベンチャーキャピタルの数、総雇用数、地域内における平均給与、バイオベンチャーの累積数を用い、非説明変数としてバイトテクノロジー企業数を用いて、 ポアソン回帰分析を行った。1990年時点での交差系列 分析(地域別)、パネル分析(地域別かつ時系列)、組織種類別(ベンチャー企業と大企業)パネル分析の3種類を実施した。
少なくともバイオテクノロジー産業においては、 知的人的資本の発生と位置が、産業のある地域への発生要因の最も重要な指標である。この産業は、基礎科学研究のテストケースである。地域内のベンチャーキャピタル数は、新しい会社の誕生とは負の関係であった。これは科学者たちを大きな企業に集約し、ベンチャー企業の公開を促進するというベンチャーキャピタルの役割に基づくと考えられる。
本研究においては、知的人的資本の発生と普及が、米国におけるバイオテクノロジー産業がいつどこで発生するかの主要因であると結論づけた。知的人的資本は、優れた大学の周辺に発生しがちであるが、卓越した科学者(研究の生産性による測定)は、大学や政府からのグラントの有無に関わらず存在する。私たちの研究成果は、科学のブレークスルーにより生まれる新たなハイテク産業の創成に、優れた大学や最高水準の科学者がどのような役割を果たすかについて、新たな視点を提供した。研究開発と商業化の両方の能力を持つスター研究者を特定することにより、地域内のスピルオーバー効果を定量的に示した。
[論点]
- ポアソン回帰モデルの妥当性
- Log-likelihood値(-350.7、-1184.6、-383.9、-382.9等)は、妥当性をどのように評価可能か。
- 個別の被説明変数の選択は、モデルにおいて妥当と呼べるのか。
- 検定、モデルの適合度の検証は?
- なぜベンチャーキャピタル数は、ベンチャー企業創出数と負の相関関係なのか。