Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

日本にはクラスターが存在しない


続いて、Zucker女史のサイエンスの商業化における日米の比較研究。日本側の分析手法にはまだまだ課題があるように思いましたが、イノベーション分野の日米の比較研究ということで大変参考になります。

Zucker L. G. and Darby M.R. “Capturing Technological Opportunity Via Japan’s Star Scientists: Evidence from Japanese Firms’ Biotech Patents and Products

Zucker et al. (1998)の研究をで示された米国におけるバイオテクノロジー産業の誕生に関する分析を、日米比較に発展させた研究。

日本におけるバイオテクノロジー産業のデータを用いて、特定のスター研究者との恊働は企業の研究の生産性を向上させることを明らかにした。具体的には1989/1990年において、企業のバイオテクノロジー関連特許が34%増加し、開発段階の製品が27%増加し、販売段階の製品が8%増加した。しかしながら、特定地域内のスピルオーバー効果については、明確な証拠が示されなかった。バイオ産業創成の初期段階においては、スター研究者の持つ遺伝子工学の暗黙知が重要であり、研究者は技術移転に関与してきた。日本においては、法律や組織の慣習に基づき、企業の研究者は、大学の研究室にて研究を行う。これは、米国では大学研究者が企業の研究室にて研究を行うことと対照的である。この結果、スター研究者との恊働は、大学の近接地で行う必要がなくなり、地域経済への貢献が減少する。また、産学連携を行うことによるスター研究者の生産性は、米国ほどには向上しない。

分析にあたっては日本を、北海道、北本州、東京、東京近郊、西中央本州、関西、西本州、九州の8地域に分割した。被説明変数として、米国におけるバイオテクノロジー関連の特許数、開発段階の製品数、販売段階の製品数の3を定義し、それぞれについてポアソン回帰分析を行った。説明変数は、Zucker et al. (1998)に定義されたものに加えて、製品について治療およびワクチンに限定した指標、論文の累積数に関する指標、系列への所属の有無を用いた。論文の累積数については、企業と兼職するスター研究者の論文数、 地域内の企業と恊働研究を行うスター研究者の論文数、地域外の企業と恊働研究を行うスター研究者の論文数、企業と恊働研究を行うスター研究者の論文数、企業と関係を持たないスター研究者の論文数の指標を設定した。



[論点]

  • χ二乗検定による本モデルの妥当性はどのように評価するか。
  • 日本は東京への一極集中 。東京のみを地域として定義した場合、日本においても地域内のスピルオーバー効果が認められるのではないか。分散型の米国と、一極集中型の日本を同じモデル(地域を分割するという考え方)で比較することに無理があるのではないか。
  • 1990年以降の日本のバイオテクノロジー産業はどのように変化したのか。
  • 国立大学の独立法人化前後で変化が見られるか。
  • 国立大学の兼職規定緩和で変化が見られるか。
  • 日本の大学発ベンチャー政策はインパクトを及ぼしているか。
  • 日米で研究者の研究室常駐率はどのような差異があるのか。
  • 日本において、企業研究者は、大学で得られた知見をどのように企業に持ち帰るのか。
  • 大学内研究室における恊働と企業内研究室における恊働は、アウトカムにどのような違いが見られるのか。