「3日で学べる福澤諭吉概論」
はじめに
慶應義塾のインキュベーションに携わっていると、事あるごとに福澤精神という言葉が出てきます。というのは、大学でインキュベーションを「ビジネス行為」を行うことは、下手すると大学の本来的使命とのコンフリクトが発生します。そうならないためには、慶應義塾の建学の理念に立ち返って、福澤諭吉がどういう思想を持っていたのか、ということを考えることが助けになる場合があります。そのことによって、インキュベーション活動は軸を持つことができるし、「ぶれない」マネージメントをすることが可能となります。
さて、福澤精神はどのように学べば良いのか、という質問を学生を中心に多くの方からいただきます。今回は私のお勧めの、「3日で学べる福澤諭吉概論」を皆さんにお伝えしたいと思います。
以下に福澤精神を学ぶにあたって読むと良い本をご紹介します。これら本を読むときは、必ず私が紹介した順番に読むようにして下さい。間違っても順番を変えてはいけません。物事を学ぶときは、「興味が持ちやすいエピソード」から「深い理論なり思想」の順番で学習していった方が間違いなく効率的です。興味を持っていれば、難しい本も興味深く読むことができますが、難しい本から先に読むと、その分野が大嫌いになります。確実に。
ちなみに、慶應義塾大学に入学すると、全新入生に「福翁自伝」が配られます。でも良く考えてみると、福澤諭吉の一番有名な著作は「学問のすすめ」です。なぜ「学問のすすめ」ではなく、「福翁自伝」が配られるのでしょうか。それは恐らく、創立者である福澤諭吉のキャラクターを理解し、興味を持つためには、「福翁自伝」の方が適しているからです。先に「学問のすすめ」を読んでしまうと、福澤諭吉への興味を失ってしまう人がでるような気がします。
その1
- 作者: 北康利
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/03/30
- メディア: 単行本
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この本が、福澤諭吉の伝記物の中では、もっとも面白く読むことができる本だろうと思います。福澤諭吉がいかに破天荒で快闊な人物だったかが良く分かります。本のタイトル自体も福澤諭吉の精神そのものを表していて個人的に大好きです。
もし、福澤諭吉の時代にワイドショーがあったとしたら、福澤諭吉は頻繁にワイドショーに取り上げられるような人物だったんじゃないかと思います。今の時代で例えるなら(極端にいえば)、東国原宮崎県知事や橋下大阪府知事くらい、自由闊達で目立つ人だったんだろうと思います。
この本の素晴らしいところは、福澤諭吉を「偉人化」していないところです。等身大の福沢諭吉を知ることができます。
海外に何度も行き、西洋文明を日本に輸入した急先鋒の人だったのだから、さぞかし英語が上手かと思いきや、発音が悪くて海外では全然英語が通じなかった、とか面白いエピソードが沢山でてきます。
この本を読むと福澤諭吉という人物の「面白さ」が良く分かるかと思います。それと同時にその背後にある福澤の一貫した思想も散りばめられています。
その2
- 作者: 福沢諭吉,富田正文
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1978/10
- メディア: 文庫
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慶應義塾大学で全新入生に配られる福澤諭吉が自ら書いた自伝です。この本は口語体で書かれていますし、内容的にもとっつきやすいです。この本から読み始めても良いのですが、何せ本人が書いているものよりも、他者が書いている本の方が、暴露本として面白いと思います。という訳でやっぱりまずは「福澤諭吉 国を支えて、国を頼らず」から読むことをお勧めします。
といいつつも、この「福翁自伝」は、福澤本人が書いているといっても、本人の失敗談なども多数入っています。適塾に在籍していたエピソードなんか、面白いことが沢山書いてあります。
この本を読めば、福澤諭吉の人生が大体理解できるかと思います。そして本人の本ですので、福澤諭吉の人となりやキャラクターを理解できると思います。
その3
- 作者: 福澤諭吉,斎藤孝
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/02/09
- メディア: 新書
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3冊目は言わずと知れた「学問のすすめ」です。ただし、「学問のすすめ」は原文で読まない方が良いと思います。文語体で書かれているので、慣れていない人には、チンプンカンプンだと思います。
という訳で、現代語訳で読むことをお勧めします。実は現代語訳版も沢山種類があるんですが、私が今まで何冊か読んだ経験でいうと、斎藤孝さんがまとめたこの本がダントツに一番良いと思います。若い人向けに、福澤のメッセージを伝えようと工夫を凝らした本です。現代の用語かつ現代の感覚で、実に分かりやすく翻訳されていますし、大事な部分は太字にするなど、様々な工夫が凝らされています。
やっぱり、何と言ったって「学問のすすめ」を読まなくては、福澤諭吉の精神や思想の根本を理解することはできません。最初の2冊を読んでいれば、なぜ福澤がこのような考えを持つようになったか、という背景を十分持っているので、「学問のすすめ」の内容も、頭にばっちり入ると思いますし、はるかに深い理解を得ることができるでしょう。
「学問のすすめ」は、タイトルだけ見ると、「まじめな人がまじめに勉強は大事だよ」、と淡々と語ってるんじゃないか、というイメージを持つかも知れません。でも実際に読んでみると中身は全く違います。個々人にとっては生きる力とは何かについて語っている本ですし、国家はどうあらねばならぬか、ということを語っている本です。当時はこのタイトルで良かったかも知れませんが、今の時代だったらもっと違うタイトルにしないと、この本で伝いたい趣旨が伝わらないかも知れませんね。
ちなみに勝間和代さんの一連の著作は、実に本のタイトルのネーミングがうまい、と思いますが勝間さん流にこの「学問のすすめ」を現代風にネーミングをするとしたら、「会社に人生を預けるな -リスクリテラシーを磨く」なんて結構ピッタリだと思います。ちなみに勝間さんの本を色々読みましたが、あらゆるところに福澤精神が垣間見ることができます。勝間さんは、慶應や福澤諭吉という言葉を一切使わずに、福澤精神を広く伝えている伝道者だと個人的にはずっと思っています。今回の「3日で分かる福澤諭吉概論」には含めない余談となりますが、勝間さんの本をそこそこ読むと、福澤精神の大枠を現代の時代感覚から理解できるように思います。
まとめ
という訳で、福澤精神をもう少しきちんと学んでおきたいな、と思う人はぜひがんばってみて下さい。でも、福澤精神は決して押し付けるようなものではありません。無理して勉強しなくて良いと思います。もし興味を持ったら、読んでみてはいかがでしょう。個人的には学んでみると面白いと思うので、皆さんに(慶應関係者以外の方にも)結構お勧めです。