Science, Technology, and Entrepreneurship

早稲田ビジネススクール准教授。研究分野である、「科学技術とアントレプレナーシップ」に関することを中心に、日常生活で考えたことをお届けします。

仮説「大学発ベンチャー制度は、大学のイノベーションの促進の阻害要因となっている」


ちょっと過激なタイトルにしてみましたが、私は最近研究でこんなことを考えています。大学においてその研究成果であるサイエンスを商業化するためには、イノベーション・パイプラインにのせて実用化までもっていかないといけない訳ですが、そのときの最大のボトルネックは、実は大学発ベンチャー制度なのではないか、という気がしてきています。そもそもは、大学発ベンチャーは、イノベーションを促進するために行われているもののはずなんですが。


自分の今の考えを簡単にまとめてみるとこんな感じです。

大学のサイエンスの商業化のパイプラインにおいては、前期基礎研究と後期基礎研究があり、米国では前期基礎研究は国の補助金、後期基礎研究の資金調達手法として大学発ベンチャーを活用しているが、サイエンス産業のモジュラリティの低さ、VCの投資回収期間の短さ、VCのファンドサイズの限界、大企業のイノベーションの吸収力の低さにより、イノベーションが停滞してしまう。ここのキャズムを埋めるために、15年スパンの大型資金が必要で、社会コスト及び研究者のインセンティブを考えた場合に補助金は不適切なので、ソブリンファンド(もし出し手がいれば、民間資金も場合によってはありうる)を活用し、知財管理によるリターンを活用する主体(大学もしくはLLP)の研究として後期基礎研究を行っていくことが、ナショナルイノベーションシステムにおけるサイエンスの商業化にとって適切である。


という訳で、やや過激な言い方をすれば、大学発ベンチャーを作ること自体が大学のイノベーションを停滞させるアーキテクチャになっているので、新たなイノベーション創出のアーキテクチャが求められている、ということです。もちろん、これはあくまで一つの仮説に過ぎません。でも、私みたいなキャリアを歩んできた人が、自分の今までの活動を否定する仮説を立てて検証してみるというのは、面白い試みかな、と思っています。

このテーマでもう少し色々と掘り下げてみようと思います。


ちなみに、この考え方のモチーフとなったのは、ハーバードビジネススクールのピサノ教授の書いた以下の本です。この本、サイエンスの商業化を考える上でかなりお勧めです。


サイエンス・ビジネスの挑戦 バイオ産業の失敗の本質を検証する

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